会社の強さを測る物差しは、売上高や従業員数だけではありません。扱う市場は小さくても、その市場では世界中の顧客に選ばれ、高いシェアを持つ会社があります。こうした会社に光を当てるために経済産業省が設けたのが「グローバルニッチトップ企業100選」です。名前は知っていても、何を基準に、どんな会社が選ばれてきたのかは意外と知られていません。経済産業省の公表資料をもとに、制度の中身と選定企業の顔ぶれを整理します。

「ニッチトップ」とは何を指すのか

ニッチとは、大きな市場の中のすきまや、特定の用途に絞られた小さな市場のことです。グローバルニッチトップとは、そうした世界市場のニッチ分野で高いシェアを確保し、良好な経営を実践している企業のことを指します。経済産業省は2020年版の選定にあたり、対象を「世界市場のニッチ分野で勝ち抜いている企業や、国際情勢の変化の中でサプライチェーン上の重要性を増している部素材等の事業を有する企業」などと説明しています。市場規模の大きさではなく、その分野での世界シェアと、事業としての成り立ちが問われる物差しです。

この考え方の背景には、日本の製造業の姿があります。完成品で世界の表舞台に立つ大企業だけでなく、完成品の中に入る部品、素材、生産設備の分野で、世界中のメーカーから「この会社の製品でなければ困る」と言われる会社が数多く存在します。そうした会社は消費者向けの広告をほとんど出さないため知名度は低くても、産業の土台を支えています。100選は、知名度や規模のランキングでは拾えない強さを可視化する試みだと言えます。

なぜ小さな市場で高いシェアを持つと、利益が出やすいのでしょうか。市場が小さい分野には大企業が本格的に参入しにくく、専門的な技術や細かな対応力が求められるため、価格だけの競争になりにくいと言われます。また、部品や素材はいったん顧客の製品や生産ラインに組み込まれると、品質や供給の安定が重視され、簡単に取引先が乗り換えられることもありません。世界シェアと利益の両立が審査で求められるのは、こうした「小さくても強い」事業の条件を確かめるためだと読むことができます。

「認定」ではなく「選定」 — 制度の正確な姿

この制度はしばしば「経産省の認定」と呼ばれることがありますが、経済産業省の公表文の表現は「選定」です。2020年版についても、経済産業省は​113社を「選定しました」と発表しています。ISOの認証のように、基準への適合を審査機関が証明し、事業を行うために必要になるような仕組みではありません。公募に応募した企業の中から、審査を経て優れた企業を選び、顕彰する制度です。選ばれたことが何かの営業許可になるわけでも、品質保証のマークになるわけでもありません。

進め方も公表されています。2020年版は2020年1月から2月にかけて公募が行われ、​249社の応募がありました。審査委員も交えた審査の結果、​113社が選定されています。なお、経済産業省のページには「本施策は、令和3年3月31日をもって終了いたしました」と明記されています。つまり、毎年新しい企業が選ばれ続ける現行制度ではなく、選定は2013年度と2020年の2回行われた取り組みです。「最近選ばれた会社」を探す制度ではない点は、正確に押さえておく必要があります。

「100選」なのに113社 — 部門別の内訳

名前は100選ですが、2020年版で実際に選ばれたのは​113社です。100という数字は、おおよそ​100社規模を選ぶ枠組みの名称として受け取るのが正確です。部門別の内訳は次のとおりで、機械・加工部門が全体の半分以上を占めています。

部門の構成が示すのは、選定企業の中心が、消費者向けの製品よりも、工場で使われる機械や加工技術、素材といった、ものづくりの上流にあることです。食品を包む機械、基板に穴を開けるドリル、ロボットの関節を動かす減速機。いずれも最終製品の陰に隠れますが、その分野では世界シェアを競う会社ばかりです。

選ばれた会社の顔ぶれ

経済産業省の公表リストで確認できる選定企業には、次のような会社が並びます。いずれも「その分野でなければ」という製品を持っている点が共通しています。

選定された日精エー・エス・ビー機械の発表によれば、審査にあたっては「世界シェアと利益の両立」「技術の独自性と自立性」「サプライチェーン上の重要性」が求められたとされています。シェアが高いだけではなく、利益が出ていること、技術が他社への依存でなく自立していること、そして供給が止まると困る部素材であること。この3点が、ニッチトップという言葉の中身です。

公表リストの作りにも特徴があります。リストでは企業名だけでなく、その企業がニッチトップとされた製品やサービスの名前が併せて示されます。会社単位ではなく「どの製品で」トップなのかを示す形式です。一つの会社の中に強い事業とそうでない事業があるのが普通であり、評価の単位を製品・サービスに置くことで、「会社の大きさ」ではなく「事業の強さ」を見る物差しになっているのです。私たちの身近なところでも、工場で食品を包む機械、ロボットの関節を支える減速機、半導体を載せる基板といった形で、選定企業の製品は最終製品の内側に入り込んでいます。

会社調べでの使い方と、注意点

この100選は、就職や転職、取引先調べで「知られざる優良企業」を探す入口として役立ちます。売上高ランキングの上位だけを見ていては出会えない、中堅・中小規模の世界企業が数多く含まれているからです。工場や本社の所在地も全国に散らばっており、地元で働ける世界企業を探す手がかりにもなります。

顔ぶれの地域性にも目を向けると、選定企業は大都市圏の会社ばかりではありません。地方に本社や工場を置き、その地域の雇用を支えながら世界市場で戦う会社が数多く含まれています。世界シェアを持つ事業があることは、その地域にとって、景気の波に左右されにくい産業の核を持つことでもあります。企業研究の際には、本社の所在地と合わせて見ると、会社の一覧が違った姿に見えてきます。

一方で、注意点もあります。選定は2020年時点の評価であり、その後の業績やシェアを保証するものではありません。選定企業の顔ぶれは時代とともに変わり、事業環境の変化を受けている会社もあります。実際にその会社を調べるときは、100選に選ばれたという事実を入口にして、各社の最新の決算や事業内容で現在の姿を確かめることが大切です。当サイトの企業ページでも、ここで名前を挙げた上場企業の売上高や利益率を確認できます。

なお、選定企業のその後をたどると、この制度が「選ばれた時点の記録」であることも分かります。事業を取り巻く環境は変わり続け、得意分野の市場そのものが縮小したり、競争の形が変わったりすることもあります。だからこそ100選は、会社の格付けとしてではなく、企業研究の出発点として使うのが適切です。どんな製品で、どの市場で評価されたのかを知ったうえで、現在の決算と事業内容を確認する。その順番で読むと、一覧表は生きた会社調べの道具になります。

まとめると、グローバルニッチトップ企業100選は、会社の規模ではなく「世界市場の小さな分野で、代わりの利かない存在になっているか」を測る物差しです。2013年度と2020年の2回、経済産業省が公募と審査によって選んできた記録であり、2020年版の​113社が最新の顔ぶれです。大きな会社だけが強い会社ではない。その当たり前を、具体的な会社名のリストとして示したところに、この制度の価値があります。

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