求人情報やニュースで毎日のように目にする「大企業」と「中小企業」という言葉には、実は片方にだけ法律の定義があります。中小企業については中小企業基本法が基準を定めていますが、大企業という言葉そのものを定義した条文はありません。一般に、中小企業の基準に当てはまらない会社が大企業と呼ばれています。つまり境目を知るには、中小企業の側のものさしを読むことが出発点になります。

中小企業の基準は「業種×資本金・従業員数」で決まる

中小企業基本法第2条第1項は、国の施策の対象とする「中小企業者」を、業種ごとに資本金の額または出資の総額と、常時使用する従業員の数で示しています。ポイントは、資本金と従業員数の両方を満たす必要はなく、どちらか一方が基準以下であれば中小企業者に当たることです。たとえば製造業で資本金が基準を超えていても、従業員数が​300人以下であれば中小企業者です。逆に、従業員が多くても資本金が小さければ中小企業者になります。業種は主たる事業で判断され、ものづくり系と商業・サービス系では基準の水準が大きく異なります。

同じ従業員​100人でも、卸売業やサービス業では中小企業者の範囲の内側、小売業では従業員数の基準を超えるため資本金で判定することになります。同じ規模でも業種が違えば結論が変わる点が、この定義の一番の特徴です。また、ものさしになる業種分類は日本標準産業分類に基づいており、中小企業庁は2024年4月に施行された第14回改定に伴う範囲の取扱いも案内しています。

中小企業の中にもう一段ある「小規模企業者」

中小企業基本法第2条第5項は、中小企業者の中でも特に小さい事業者を「小規模企業者」として区別しています。こちらは資本金の基準はなく、従業員数だけで決まります。おおむね常時使用する従業員の数が​20人以下、商業またはサービス業については​5人以下の事業者です。商業とは卸売業と小売業を指します。なお、関連する法律では政令により、宿泊業と娯楽業は従業員​20人以下を小規模企業として扱う場合があることも、中小企業庁が案内しています。支援制度の中には中小企業者向けと小規模企業者向けで内容が分かれるものがあるため、この一段の区別も実務では意味を持ちます。

条文が「おおむね」と書いている点も見逃せません。中小企業基本法第2条は、対象をおおむね次の各号に掲げるものと定めており、線引きが完全に固定的なものではない書き方になっています。また、対象には会社だけでなく個人も含まれます。個人事業主として営む事業も、業種と従業員数のものさしで中小企業者や小規模企業者に当たるかどうかが判断されます。規模の呼び方は、法人だけの話ではないのです。

この定義は「原則」で、制度ごとに対象範囲は変わる

注意したいのは、中小企業基本法の定義がそのまま全ての制度に当てはまるわけではないことです。条文自体が、対象の範囲は施策ごとに定めるものと書いており、中小企業庁も、この定義は中小企業政策における基本的な政策対象の範囲を定めた「原則」であり、法律や制度によって中小企業として扱われる範囲が異なることがあると説明しています。代表例が税制で、法人税法における中小企業向け軽減税率の適用範囲は資本金​1億円以下の企業が対象とされており、業種別のものさしとは別の線が引かれています。

業種の中にも特例があります。中小企業関連の法律では政令により、ゴム製品製造業の一部は資本金​3億円以下または従業員​900人以下、旅館業は資本金​5,000万円以下または従業員​200人以下、ソフトウェア業と情報処理サービス業は資本金​3億円以下または従業員​300人以下を中小企業とする場合があります。さらに補助金や助成金では、大企業と密接な関係を持つ企業が「みなし大企業」として対象から外れる場合があることも、中小企業庁が注意を促しています。自社や勤め先が制度の対象になるかどうかは、最終的には制度ごとの案内で確かめる必要があります。

会社法の「大会社」は、まったく別のものさし

似た言葉に、会社法の「大会社」があります。これは中小企業基本法の大小とは関係のない、株式会社の機関設計や計算書類のルールを決めるための区分です。会社法第2条では、最終事業年度の貸借対照表で資本金として計上した額が​5億円以上であること、または負債の部に計上した額の合計が​200億円以上であることのいずれかに当たる株式会社を大会社としています。中小企業かどうかは業種と資本金・従業員数の組み合わせ、大会社かどうかは資本金と負債の金額というように、目的もものさしも異なります。言葉が似ているため混同しやすい点です。

名前の大きな会社は、基準からどれだけ離れているか

では、誰もが知る大きな会社は基準とどれくらい離れているのでしょうか。このサイトに掲載している連結従業員数で見ると、トヨタ自動車は​390,927人、NTTは​344,196人、三菱UFJフィナンシャル・グループは​161,576人、伊藤忠商事は​114,570人です(いずれも2026年3月期)。製造業の従業員基準である​300人と比べると、桁が3つ違う世界であることが分かります。ただし、ここで並べたのはグループ全体を合わせた連結の人数で、中小企業基本法の「常時使用する従業員」の数え方とは対象範囲が異なります。判定そのものではなく、規模感をつかむための対比として読んでください。

大手4社の連結従業員数(2026年3月期)
トヨタ自動車390,927人
NTT344,196人
三菱UFJフィナンシャル・グループ161,576人
伊藤忠商事114,570人
グラフの数値をテキストで見る(4件)
  • トヨタ自動車 — ​390,927人(2026年3月期・連結従業員数)
  • NTT — ​344,196人(2026年3月期・連結従業員数)
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ — ​161,576人(2026年3月期・連結従業員数)
  • 伊藤忠商事 — ​114,570人(2026年3月期・連結従業員数)

会社の大きさを読むときのまとめ

上場しているかどうかは、この基準の中には含まれていません。株式を公開している会社でも、資本金と従業員数が基準の内側にあれば、中小企業基本法の中小企業者に当たる場合があります。逆に、未上場でも基準を超えれば中小企業者ではありません。「上場なら大企業、中小なら未上場」というイメージと、法律のものさしは一致しないのです。

会社の大きさは、知名度や売上だけでは決まらず、法律のものさしを当てはめることで初めて判定できます。勤め先や取引先の規模を話題にするときは、どの業種で、資本金と従業員数のどちらを見ているのかをそろえて話すと、認識のずれが小さくなります。

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出典(3件)