SaaS、IaaS、PaaS、MaaS、XaaS……。「as a Service(サービスとして提供する)」という言い回しは、IT業界の製品分類から交通やセキュリティの分野まで広がりました。しかし、これらの言葉すべてに公的な定義があるわけではありません。定義が標準化されている言葉と、業界の慣用として使われている言葉とを分けて理解しないと、企業の事業内容を読み違えます。本稿では、公的機関・標準化団体の定義で確認できる言葉をまず押さえ、定義が定まっていない言葉についてはその旨を明示したうえで、日本企業がどの領域にいるのかを各社の公式な事業説明から整理します。

土台は3つ:SaaS・PaaS・IaaS

クラウドコンピューティングの定義として広く参照されるのが、米国国立標準技術研究所(NIST)のSP 800-145(2011年)です。同文書は、クラウドのサービスモデルを3つに整理しています。SaaS(Software as a Service)は、事業者がクラウド上で動かすアプリケーションをそのまま利用する形態で、利用者は基盤やアプリケーション自体を管理しません。PaaS(Platform as a Service)は、事業者が用意した開発言語やライブラリ、ツールを使って自作のアプリケーションを配備する形態で、利用者が管理するのは自分のアプリケーションです。IaaS(Infrastructure as a Service)は、処理能力やストレージ、ネットワークといった基盤資源そのものを利用する形態で、利用者はOSやアプリケーションまで管理しますが、基盤そのものは管理しません。総務省の平成30年版情報通信白書も同様に、クラウドサービスをハードウェア機能を提供するIaaS、開発・実行環境を提供するPaaS、アプリケーション機能を提供するSaaSに分けて説明しています。「利用者がどこまでを管理し、どこからを事業者に任せるか」という責任範囲の違いが、3分類の軸です。

分野ごとの定義がある言葉:MaaSとSECaaS

MaaS(Mobility as a Service)は、国土交通省が「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義しています。鉄道・バス・タクシーなどを一つのアプリでつなぐ考え方で、クラウドの3分類とは別系統の言葉です。なお同省も、MaaSの定義は国内外でさまざまだと注記しています。SECaaS(Security as a Service)については、セキュリティ業界団体であるCloud Security Alliance(CSA)が2011年にカテゴリを整理した文書を公表し、セキュリティ機能をサービスとして提供する領域を分類しています。いずれも、定義の出所をたどれる言葉です。

なお、NISTの定義はサービスモデルと並んで提供形態(デプロイメントモデル)も整理しており、クラウド基盤を特定組織専用とするプライベートクラウド、不特定多数が使うパブリッククラウド、両者を組み合わせたハイブリッドクラウドなどを区別しています。総務省の情報通信白書でもパブリッククラウドとプライベートクラウドの区別が説明されており、「どのモデルか」と「どの提供形態か」は別の軸だという点も、企業発表を読むときの基礎知識になります。

正直に言うと、定義が定まっていない言葉も多い

一方で、公的機関や標準化団体による統一的な定義が確認できない言葉も数多くあります。XaaSは「X(あらゆるもの)をサービスとして提供する」という総称として使われ、本来は分類名というより言葉の型を示す表現です。FaaSは関数の実行環境を提供する形態、BaaSはモバイルアプリ等の裏側の機能を提供する形態、DaaSはデータや仮想デスクトップを指すなど、同じ綴りでも文脈で意味が変わるものがあります。RaaS、AaaS、GaaS、HaaS、CaaS、VaaSといった言葉も、ロボット、認証、ゲーム、ハードウェア、通信、映像など、使う業界や企業によって指す内容が異なり、唯一の定義は存在しません。これらについては本稿でも無理に定義を作らず、「決まった定義はなく、文脈で意味が変わる言葉」として扱います。企業のプレスリリースで新しい「aaS」が登場したときは、その企業自身が何を提供するサービスだと説明しているかを確認するのが確実な読み方です。

日本企業の顔ぶれ:公式の事業説明で読む

では、日本の上場企業はどの領域にいるのでしょうか。各社の公式な事業説明に即して見ていきます。フリー(freee)は自社を「日本発のSaaS型クラウドサービス」と位置づけ、クラウド会計ソフトfreeeや人事労務freeeなど、中小企業のバックオフィス向けSaaSを提供しています。マネーフォワードも、公式発表で『マネーフォワード クラウド』をはじめとする「バックオフィスSaaS」へのAI実装を進めていると説明しており、会計・人事労務・法務などの領域でSaaSを展開しています。Sansanは事業内容を「働き方を変えるDXサービスの企画・開発・販売」とし、営業DXサービス「Sansan」、名刺アプリ「Eight」、経理DXサービス「Bill One」などを手がける、クラウド型サービス中心の企業です。サイボウズはグループウェアの開発・販売・運用を事業とし、業務アプリをノーコードで作れるクラウドサービス「kintone」を提供しています。これらはいずれも、アプリケーションをそのまま使ってもらうSaaSの領域が中心です。

これに対して、さくらインターネットは位置づけが異なります。同社の「さくらのクラウド」は、仮想サーバーやストレージ、データベース、ネットワークといった基盤資源を利用者へ提供するクラウドコンピューティングサービスで、NISTの分類でいえばIaaSに近い領域を担います。富士通やNEC、TIS、BIPROGY、野村総合研究所、大塚商会、システナ、オービック、GMOインターネットといった企業もクラウド関連事業を持ちますが、システム構築や運用受託(SI)と組み合わせた提供が中心で、単一の「aaS」に分類しきれない企業も少なくありません。本稿では、公式の事業説明で提供形態が明確に確認できる範囲に限って分類し、曖昧な企業については断定を避けています。

言葉ではなく「何を提供し、どこまで管理するか」で読む

「aaS」の言葉は今後も増え続けるでしょう。しかし企業の実態を掴むうえで大切なのは、略語の暗記ではなく、その企業が「何をサービスとして提供し、利用者と事業者の管理範囲の境界がどこにあるか」を確認することです。定義のある言葉は定義に照らし、定義のない言葉はその企業自身の説明に照らす。SaaS型の企業は利用企業の数と継続率が、IaaS型の企業は設備投資と稼働率が、それぞれ経営の鍵になります。言葉の出所を確認する習慣が、IT企業のニュースや決算を読む精度を上げるはずです。

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