自動車業界の記事で見かける「ティア1」「ティア2」という言葉。ティア(Tier)は英語で「階層」を意味し、完成車メーカーを頂点とする部品供給のピラミッドの中で、その会社がどの位置にいるかを示す呼び方です。トヨタ自動車の場合、頂点に完成車メーカーのトヨタが立ち、その下に何層もの部品メーカー(サプライヤー)が連なります。このコラムでは、ティアの定義と各層の役割、そしてトヨタのティア1として名前が挙がる企業の顔ぶれを、有価証券報告書など公式に確認できる範囲で整理します。なお、ティアは法律や上場ルールで定められた区分ではなく、取引上の位置を示す業界の通称です。
ティアの 定義—— 「誰に 直接納めるか」で 決まる
- ティア1(一次サプライヤー)——完成車メーカーに部品やシステムを直接納入する会社。エンジン部品、ブレーキ、シート、空調など、車にそのまま組み付けられる単位で供給します
- ティア2(二次サプライヤー)——ティア1に部品を納入する会社。ティア1の製品の一部になる部品や半製品を作ります
- ティア3(三次サプライヤー)——ティア2に素材や加工品、汎用部品を供給する会社。素材メーカーや表面処理・プレス加工などの加工専業が多くなります
大切なのは、ティアは会社の格付けではなく「その取引での立ち位置」だという点です。同じ会社でも、製品Aでは完成車メーカーに直接納めてティア1、製品Bではティア1経由で納めてティア2、ということが起こります。また、ティア1同士、ティア2同士の横の取引も活発です。それでも大づかみに言えば、下の層ほど会社数が増え、専門分野に特化した中小企業が多くなり、上の層ほど完成車メーカーと共同で開発を行う大きな部品メーカーが並ぶ構造になっています。
トヨタの ティア1の 顔ぶれ——トヨタグループの 部品大手
トヨタのティア1として代表的なのが、トヨタグループの部品メーカー群です。デンソーは熱マネジメント(カーエアコンなど)、パワトレイン、電動化製品などを手がけ、2026年3月期の連結売上収益は7兆5,400億円でした。有価証券報告書によれば、そのうちトヨタグループ向けの売上が4兆1,346億円と全体の54.8%を占めます。ただし残りは他の自動車メーカー向けや市販・非車載事業であり、デンソーは「トヨタ専属」ではない独立した上場会社です。アイシンは変速機(トランスミッション)やブレーキ、電動化製品に強みを持ち、同年度の連結売上収益は5兆1,178億円でした。
- 豊田合成——ゴム・樹脂部品のメーカー。エアバッグなどのセーフティシステムやウェザストリップ(ドア周りのゴム部品)が主力で、2026年3月期の売上収益は1兆1,468億円
- ジェイテクト——ステアリング(ハンドル機構)、軸受、工作機械を手がけ、同年度の売上収益は1兆9,249億円。2006年に光洋精工と豊田工機が合併して誕生しました
- 豊田通商——部品メーカーではなく、トヨタグループの総合商社です。素材や部品の調達・物流、アフリカ事業などを通じてサプライチェーンに関わり、同年度の収益は11兆5,619億円でした。ティアの階層とは別の役割として理解する必要があります
これらの会社に共通するのは、完成車メーカーであるトヨタと直接取引し、車種の開発段階から部品の設計に関わることです。量産が始まれば、トヨタの生産計画に合わせて決められた時刻に部品を届ける「ジャスト・イン・タイム」の供給も担います。一方で、各社ともトヨタ以外の自動車メーカーにも製品を納めており、ティア1という位置は特定メーカーとの関係だけで決まるものではありません。
ティア 2・ティア 3は何を しているか ——個別企業の 階層は 断定できない
ティア2やティア3の会社は公表資料が少なく、個別の会社について「この会社はティア2」と断定できる公式情報は多くありません。そのため本コラムでは個別企業の階層は断定せず、担う部品・工程の例で説明します。たとえばティア1が納めるブレーキシステムの中には、油圧を生むポンプや電子制御の部品、ゴム製のシール類などが入り、それらを作る会社がティア2にあたります。さらにその下では、金属材料や樹脂材料の供給、プレス・切削・めっき・熱処理といった加工を担う会社がティア3として連なります。完成車メーカーから見えにくい層ですが、ひとつの工程が止まれば上の層すべての供給が止まるため、災害や事故のたびに、この階層の広がりと重要性が注目されてきました。
協豊会——トヨタと 仕入先の 協力会
トヨタと仕入先の関係を象徴するのが、仕入先の協力会「協豊会」です。トヨタ自動車の公式の社史(75年史)によれば、1939年11月に第1回の「トヨタ自動車下請懇談会」が開かれて協力会が発足し(参加18社)、1943年12月に「協豊会」が発足しました。その後、関東・関西にも協豊会が結成され、設備メーカーなどの「栄豊会」と合わせて「二豊会」と呼ばれます。品質管理の普及や会員会社の体質強化といった活動の場として、協力会はトヨタ流のものづくりを取引先と共有する仕組みになってきました。ティアという階層の図だけでは見えない、長期的な取引関係と育成の文化が、トヨタのサプライチェーンのもう一つの特徴です。
トヨタの 調達の 考え方 ——門戸は 開く、 関係は長く
トヨタの社史(75年史・調達の概要)によれば、創業当時に作られた「購買係心得帳」には、より良いモノと調達先を求めて常に門戸を開放する考え方が記されており、「オープンドアポリシーに基づく公正な競争」が基本方針として生きているとされます。また2009年には、世界中の調達担当者が共有する理念として「調達のトヨタウェイ」が明文化されました。新規の取引先にも門戸を開く一方で、採用した仕入先とは長期的に関係を築き、品質管理や原価改善を一緒に進める。この二つの姿勢の組み合わせが、協豊会に代表される協力会の活動とともに、階層構造を単なる下請けのピラミッドではなく、育成のネットワークとして機能させてきた側面があります。
なお、ティアという言葉は自動車以外の業界でも使われますが、本コラムで扱うのは自動車の部品供給の階層です。また、トヨタグループの会社だからといって自動的にティア1になるわけではなく、あくまで完成車メーカーと直接取引があるかどうかが基準です。豊田自動織機のように、産業車両(フォークリフト)など自動車部品以外の事業が大きな会社もグループ内にはあり、グループとティアは重なる部分とずれる部分の両方がある、と理解しておくと誤解がありません。
ティア1に求められるのは、部品を安く作る力だけではありません。完成車メーカーの開発日程に合わせて試作と改良を繰り返す開発力、大量生産でも不良を出さない品質管理、そして生産計画の変動に応じる供給体制が一体で問われます。だからこそティア1には、技術研究所や海外生産拠点を持つ大きな会社が並び、ティア2以下の中小企業は、特定の加工や部品で専門性を磨く形で役割を分け合っています。
ティア1・2・3は、車1台がどれほど多くの会社の分業で成り立っているかを示す物差しです。数字の大小が会社の優劣を意味するのではなく、直接納入の有無という取引の位置を表します。部品メーカーの決算を読むときは、売上高だけでなく「主要な販売先はどこか」「そのメーカー向けが売上の何割か」を有価証券報告書で確認すると、階層の中での立ち位置が具体的に見えてきます。
出典(6件)
- トヨタ自動車75年史 調達・二豊会|トヨタ自動車 公式サイト (2026/11/06確認)
- トヨタ自動車75年史 調達・概要|トヨタ自動車 公式サイト (2026/11/06確認)
- アイシン 公式サイト (2026/11/06確認)
- 豊田合成 公式サイト (2026/11/06確認)
- ジェイテクト 公式サイト (2026/11/06確認)
- 豊田通商 公式サイト (2026/11/06確認)