株式を買うとき、私たちは証券会社に注文を出します。しかし、実際に売買が成立する「市場」を開いているのは証券取引所です。似た名前の二者は何が違い、それぞれ何をしているのでしょうか。さらに、銀行の窓口でも投資信託が買えるのはなぜか。このコラムでは、役割の違いと銀行の窓口販売との比較に絞って整理します。

結論を先に言えば、取引所は「場所とルール」を提供し、証券会社は「注文の取次ぎと発行の手伝い」を行い、銀行は「限られた商品の窓口」です。以下、それぞれの根拠を公式情報で確認しながら見ていきます。

取引所は「市場」、証券会社は「つなぎ手」

証券取引所は、有価証券の売買を行う市場そのものを運営する組織です。市場の施設を提供し、相場を公表し、売買等の公正を確保することがその仕事です。一方、証券会社は投資家と市場をつなぐ存在であり、市場を直接利用できるのは、証券会社などの「取引参加者」に限られます。個人投資家の注文は、証券会社を通して市場に集まる仕組みです。

個人や一般の企業が、取引所の市場で直接売買することはできません。市場への参加資格を持つ取引参加者を通じて注文を出す必要があります。この「市場は参加者を限る」という構造が、証券会社という仲介者を不可欠な存在にしています。

日本取引所グループ(JPX)は、東京証券取引所グループと大阪証券取引所が2013年1月に経営統合して誕生しました。JPXの事業紹介によれば、傘下の東京証券取引所と大阪取引所は、金融商品取引法に基づく金融商品取引所の免許を受けて金融商品市場を運営しています。2019年10月には東京商品取引所を子会社化し、商品先物の市場もグループに加わりました。

取引所の運営は、単に売買の場を提供するだけではありません。相場を公表することは、誰もが同じ価格情報を見られる状態を作ることであり、売買等の公正を確保することは、市場の信頼そのものを守る仕事です。取引参加者である証券会社は、この公正さの枠組みの中で、投資家の注文を市場へ届けます。

証券会社は何をしているか

証券会社は、金融商品取引法では金融商品取引業者と呼ばれます。金融商品取引業には第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業の四つの区分があり、内閣総理大臣の登録を受けて営む登録制です。私たちが口座を開く証券会社の中心は、株式の委託売買などを扱う第一種金融商品取引業です。

四つの区分のうち、投資家が日常的に接するのは第一種金融商品取引業です。株式や債券の売買の取次ぎや引受けなどがここに含まれます。第二種金融商品取引業は、投資信託の募集の取扱いなどを中心とする区分です。投資助言・代理業は投資判断への助言を、投資運用業は顧客の資産の運用を担います。証券会社という看板の裏側では、法律上はこうした業務の区分ごとに登録が行われています。

証券会社の仕事は、二つの市場で顔が変わります。企業が新たに株式や債券を発行する発行市場では、引受けや募集・売出しの取扱いを担い、資金を集めたい企業と投資家をつなぎます。すでに発行された有価証券が売買される流通市場では、投資家から注文を受けて市場に取り次ぐ委託売買(ブローカレッジ)と、自社の資金で売買を行う自己売買(ディーリング)を行います。会社を興す側と投資する側の双方に接点を持つのが、証券会社の特徴です。

新規上場の場面で証券会社が「主幹事」として名前を連ねるのは、この発行市場での引受けの役割によるものです。企業が市場から資金を調達する入口に証券会社が立っていることが、ニュースの見出しからも読み取れます。

二つの市場は、資金の流れの向きが異なります。発行市場では、投資家のお金が企業へ直接向かいます。流通市場では、投資家同士の間で有価証券とお金が行き来し、企業にはお金は入らない代わりに、いつでも売買できるという流動性が、株式の価値の土台になります。証券会社は、この両方の市場で仲介を担う存在です。

銀行で投資信託が買えるのに、株式が買えない理由

銀行の窓口では投資信託が販売されていますが、個別の株式を買うことはできません。この線引きは金融商品取引法にあります。同法第33条は、銀行などの金融機関は有価証券関連業または投資運用業を行ってはならないと定めています。そのうえで第33条の2は、法律で定められた行為については内閣総理大臣の登録を受けて行うことができるとし、この登録を受けた金融機関は「登録金融機関」と呼ばれます。投資信託の受益権の募集の取扱いなどは、この登録によって銀行にも開かれている行為です。

銀行による投資信託の窓口販売は、金融システム改革の中で始まりました。ただし、登録金融機関としてできる行為は法律で区切られており、株式の売買を取り次ぐような証券会社の中核業務は含まれません。銀行で買えるのは投資信託などの定められた商品、株式そのものは証券会社で、という現在の姿は、この制度の区切りをそのまま映しています。

投資信託は、多くの投資家から集めた資金を一つにまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資する仕組みの金融商品です。銀行の窓口で扱えるのは、この投資信託のような、登録金融機関の業務として認められた商品に限られます。株式そのものの売買注文を銀行に出すことはできないため、「投信は銀行でも、株は証券会社で」という使い分けが生まれています。

なお、銀行自身ではなく、銀行グループの証券会社という形は認められています。金融商品取引法第33条の7は、銀行などが総株主等の議決権の過半数を保有する者に対して、金融商品取引業の登録や認可をすることを、第33条は妨げるものではないと定めています。大手銀行グループの傘下に証券会社があるのは、この仕組みによるものです。

逆に言えば、銀行で株式が買えないのは、銀行のサービスが不足しているからではなく、法律が業態ごとに扱える業務を分けているためです。預金や融資を扱う銀行と、証券の売買を扱う証券会社とで役割を分けることで、それぞれの専門性の中で利用者を守る設計だと読むことができます。

役割分担から見える市場の姿

整理すると、取引所は公正な価格形成の場を提供する運営者であり、証券会社は投資家と発行体を市場につなぐ仲介者であり、銀行は預金や融資を本業としながら、登録を受けた範囲で投資信託などを扱う窓口です。三者は競合する存在というより、法律によって役割を分けられた分担関係にあります。

投資家から見た違いも整理しておきます。株式の売買注文は証券会社に出し、売買は取引所の市場で成立します。投資信託は、証券会社でも、登録金融機関である銀行でも購入できます。同じ「投資の窓口」でも、扱える商品の範囲は、その事業者が法律上どの立場にあるかによって決まっているのです。

証券会社と取引所の区別は、困りごとが起きたときの窓口にも表れます。注文や口座の手続に関することは証券会社へ、市場全体のルールや上場の仕組みに関することは取引所へ、というように、内容によって尋ねる先が変わります。

証券会社と証券取引所の違いは、運営者と利用者という関係にあります。そして銀行の窓口販売は、その関係の外側に法律が設けた限定的な入口です。どの窓口で何が買えるのかは、この役割分担から見ると理解しやすくなります。

関連する企業(1社)
出典(3件)