会社が事業を続けるには、お金が必要です。設備を買う、仕入れをする、人を雇う、新しい事業に挑戦する。どれにも先立つ資金が要ります。その調達方法というと銀行からの借入を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実際には入口はもっと多くあります。このコラムでは、自己資金、借入、社債、株式、ベンチャーキャピタルという代表的な手段を並べ、返済が必要かどうか、会社の持ち分がどう変わるかという物差しで全体像を整理します。あわせて、スタートアップの報道でよく見るシード、シリーズA、シリーズB、シリーズCという言葉が、会社の成長のどの段階を指すのかも段階を追って説明します。
まず分ける物差しは「返すお金」か「返さないお金」かです
資金調達の手段は、大きく2つに分けられます。1つは借入や社債のように、期限までに返す約束で集めるお金です。もう1つは株式の発行のように、返す約束はしない代わりに会社の持ち分を渡して集めるお金です。中小企業庁の2024年版中小企業白書は、前者を借入れによる調達、後者をエクイティ・ファイナンスと呼び分けて分析しています。白書によれば、借入れは収支の状況にかかわらず約定どおりの返済が前提になるため、収益の見通しが不確実な新規事業では大きな挑戦をしにくくなる面があります。一方でエクイティ・ファイナンスは定期的な償還が不要で、出資者から経営面や事業面の支援も期待できるため、挑戦に適した手段だと整理されています。どちらの方が優れているという話ではなく、返す約束の重さと、持ち分を渡すことの影響という、性質の違いを理解することが出発点です。
自己資金は、この2つのどちらでもない土台です。創業者自身のお金や、これまでに積み上げた利益を事業に回す資金で、外部から集めるものではありません。返済も利息も不要で、経営の自由度が最も高い資金ですが、用意できる金額には限りがあります。中小企業白書でも、成長に向けた設備投資の資金として自己資金のみでまかなった企業があることが示されており、投資の規模が小さいほど自己資金のみで実施する割合が高い傾向が紹介されています。外部からの調達を考える前に、まず自己資金がどれだけあるかが、借入審査や出資交渉の土台になる点も押さえておきたいところです。
借入と社債は、どちらも「返すお金」です
銀行借入は、企業金融の中心的な手段です。中小企業白書は、中小企業の成長に向けた設備投資で外部から資金を調達した方法として、金融機関からの借入れと答えた企業が最も多かったとしています。借入の特徴は、株式を渡さないため会社の持ち分、つまり経営権の割合が変わらないことです。その代わり、決められた期日に元本と利息を返し続ける義務が生じます。業績が良い年も悪い年も返済は止まらないため、安定した売上が見込める事業や、設備のように長く使う資産の購入に向いた手段といえます。金融機関は融資の判断で財務内容を最も重視し、次いで事業の将来性や経営者の能力などを見ることが白書のアンケートで示されており、借りる側には事業の見通しを具体的に説明する力が求められます。
社債も返すお金の一種です。会社が債券を発行し、引き受けた投資家などから資金を集め、満期に元本を返し、途中で利息を支払います。銀行借入との違いは、お金の出し手が金融機関ではなく、債券を買う投資家であることです。発行には会社の信用力が問われるため、実績のある大きな会社が使う場面が中心になります。借入と社債に共通するのは、集めたお金が貸借対照表の負債側に積み上がることです。返済負担が重くなれば、その分だけ次の挑戦に使える余力は小さくなります。返すお金は、返す計画とセットで初めて意味を持つ資金です。
株式とベンチャーキャピタルは「返さないお金」です
株式による調達は、新しい株式を発行し、出資者に引き受けてもらう方法です。返済期限がないため、研究開発のように成果が出るまで時間のかかる投資や、赤字の期間が続く新規事業でも資金繰りが安定しやすい点が強みです。中小企業白書でも、エクイティ・ファイナンスを活用した企業が期待するメリットとして、資金繰りが安定すること、返済不要の資金を確保できること、金融機関からの評価が上がることが挙げられています。自己資本が厚くなると、財務の見栄えが良くなり、借入の条件にも良い影響が及びやすくなります。
一方で、株式を渡すことは会社の持ち分を渡すことです。創業者や既存株主の議決権の割合は下がり、出資者からは事業の成長や企業価値の向上についての説明が求められます。白書のアンケートでも、エクイティ・ファイナンスを使ったことがない企業が課題として最も多く挙げたのは、経営の自由度が下がることでした。返す義務がない代わりに、会社の将来を出資者と分かち合う。その引き換えの関係を理解しておくことが大切です。
ベンチャーキャピタルは、株式による調達の代表的な出し手です。成長が見込まれる未上場企業に出資するファンドや投資会社を指し、資金だけでなく、経営面や財務面の助言、次の資金調達や上場に向けた支援を行うこともあります。白書の事例でも、ベンチャーキャピタルなどから出資を受けた企業が、出資者との対話を通じて事業計画を磨き、ガバナンスを整えていった経過が紹介されています。ベンチャーキャピタルから見れば、出資先が成長し、株式の価値が上がることや、上場や売却の場面で初めて成果が実る仕組みです。そのため、短期間の利益よりも、大きな成長の見込みがあるかどうかが判断の中心になります。すべての会社に向く手段ではなく、急成長を目指す会社と相性の良い資金といえます。
シードからシリーズCへ — 成長の段階を表す言葉です
スタートアップの資金調達で使われるシード、シリーズA、シリーズB、シリーズCという言葉は、法律で定められた区分ではありません。調達の回数と会社の成長段階を表す、市場で広く使われる呼び方です。段階が進むほど、事業の実績が積み上がり、調達する金額も大きくなるのが一般的ですが、金額の目安は業種や時期によって大きく異なるため、一律の数字で区切ることはできません。大切なのは金額ではなく、各段階で何が問われるかです。次のリストで段階ごとに整理します。
- プレシード・シード:事業のアイデアや試作品の段階です。創業者の自己資金、個人投資家からの出資、公的な創業支援などが中心で、問われるのは課題の大きさと、解決策として成り立つかどうかです
- シリーズA:製品やサービスが形になり、最初の顧客や売上が見え始める段階です。問われるのは、事業として繰り返し売れる仕組みがあるかどうかです
- シリーズB:売上の伸びが確認でき、事業を拡大する段階です。人材採用、販路拡大、新しい地域や領域への展開など、成長を加速するための資金が中心になります
- シリーズC以降:事業の規模が一段大きくなり、海外展開や大きな設備投資、他社の買収など、より大きな挑戦のための調達が行われる段階です。その後は新規上場や事業売却など、投資家が資金を回収する場面へ近づいていきます
この段階の呼び方を知ると、ニュースの見え方が変わります。シード調達の記事は、まだ実績よりも可能性が評価された段階の話です。シリーズBやCの記事は、売上の実績を積んだ会社が拡大に踏み出す話です。同じ資金調達という言葉でも、会社の年齢も、問われている内容もまったく違います。また、段階が進むたびに創業者の持ち分は少しずつ下がっていくため、どの段階でどれだけの株式を渡すかという資本政策そのものが、経営の重要な判断になります。
手段の選び方は、会社の段階と事業の性質で決まります
全体を並べると、資金調達に万能の答えはないことが見えてきます。売上が安定し、返す見通しが立つ事業には借入が向きます。成果まで時間のかかる挑戦には、返済期限のない出資が向きます。設備投資のように金額が大きく期間も長い投資では、借入と出資を組み合わせる会社も少なくありません。中小企業白書の事例でも、出資で自己資本を厚くして信用力を高め、その後に金融機関から大きな借入を行って設備投資を実現した企業が紹介されています。手段は対立するものではなく、順番と組み合わせを設計するものです。
- 自己資金:返済不要で自由度が高いが、金額には限りがある。すべての調達の土台になる
- 銀行借入:持ち分は変わらないが、期日どおりの返済が前提になる。安定した事業や設備投資に向く
- 社債:投資家から集める返すお金。会社の信用力が問われ、大きな会社の利用が中心になる
- 株式の発行:返済期限がない代わりに持ち分を渡す。自己資本が厚くなり、挑戦的な投資に向く
- ベンチャーキャピタルからの出資:株式調達の一形態で、資金に加えて経営支援が伴うことがある。急成長を目指す会社と相性が良い
会社の資金調達は、銀行から借りるしかない、という思い込みから離れて見ると、返すお金と返さないお金、その中間にある組み合わせという、幅のある選択肢が見えてきます。決算を読むときも、負債と純資産のどちらで事業を支えている会社なのかを見ると、その会社がどの段階にいて、どんな挑戦をしているのかが読み取りやすくなります。シードやシリーズという言葉も、その地図の上に置いて初めて意味がはっきりします。
出典(2件)
- 中小企業庁 2024年版中小企業白書 第2部第2章第1節 中小企業と間接金融 (2026/11/04確認)
- 中小企業庁 2024年版中小企業白書 第2部第2章第8節 まとめ(エクイティ・ファイナンス) (2026/11/04確認)