上場会社の決算書には、必ずといってよいほど監査法人の名前が添えられています。有価証券報告書の後ろには監査報告書が綴じ込まれ、どの監査法人がその決算を監査したかが書かれています。では、監査法人とは何をする組織で、会社とはどういう関係にあるのでしょうか。このコラムでは、会計監査の制度の成り立ち、大手監査法人と呼ばれる4法人と準大手・中小監査法人の違い、そして上場した会社でも税理士の仕事がなくならない理由を、制度と役割分担の面から整理します。
監査法人は、決算書を「作る」のではなく「確かめる」組織です
監査法人は、公認会計士が集まって公認会計士法に基づいて設立する法人で、財務書類の監査を組織的に行うことを目的としています。仕事の中心は、会社が作った財務諸表が、会計の基準に沿って適正に表示されているかどうかを、会社から独立した第三者の立場で確かめ、意見を表明することです。日本公認会計士協会は、監査は公認会計士だけに認められた独占業務であり、決算書が正しく作成されているかを独立した立場からチェックして監査意見を表明することで、情報の信頼性を確保し、企業の社会的信用を高める役割を果たすと説明しています。ポイントは、決算書を作るのは会社自身であり、監査法人は作られたものを外から確かめる立場だということです。作る人と確かめる人が分かれているからこそ、投資家はその数字を安心して使えます。
監査を受けることが法律で求められる場面は、主に2つの法律に基づきます。1つは金融商品取引法で、上場会社などが提出する有価証券報告書などの財務計算に関する書類について、公認会計士または監査法人の監査証明を受けることが求められます。投資家保護の観点からの仕組みです。もう1つは会社法で、一定の規模以上の会社などに会計監査人の設置が求められ、株主や債権者を保護する観点から計算書類の監査が行われます。上場会社は、この2つの法律に基づく監査の両方を受けることになります。金融庁の公認会計士・監査審査会も、上場会社などに対する監査が金融商品取引法または会社法に基づいて行われていることを前提に、監査法人への検査やモニタリングを行っています。
いわゆるBig4 — 世界ネットワークに属する日本の大手4法人です
新聞や就職情報でよく見るBig4という呼び方は、法律上の区分ではなく、4つの国際的な会計ネットワークに対応する日本の大手監査法人を指す通称です。顔ぶれは次の4法人です。有限責任あずさ監査法人はKPMGのメンバーファームで、公式サイトでもKPMGのメンバーファームとして監査やアドバイザリーを提供するとしています。有限責任監査法人トーマツはデロイトのネットワークに属し、英語名はDeloitte Touche Tohmatsu LLCです。EY新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドの日本におけるメンバーファームです。PwC Japan有限責任監査法人はPwCのグローバルネットワークのメンバーファームで、2023年12月1日にPwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人が合併して現在の名称で業務を開始しました。各法人はそれぞれのネットワークに属しながらも、日本の法律に基づいて設立された独立した法人です。
- 有限責任あずさ監査法人 — 国際ネットワークはKPMG
- 有限責任監査法人トーマツ — 国際ネットワークはデロイト
- EY新日本有限責任監査法人 — 国際ネットワークはEY
- PwC Japan有限責任監査法人 — 国際ネットワークはPwC。2023年12月に2法人の合併で発足しました
規模の大きさは、金融庁の公認会計士・監査審査会が公表した令和7年版モニタリングレポートの解説にも表れています。同解説によれば、大手監査法人は監査証明業務数では全体の5割超、監査業務収入では8割近いシェアを占めています。上場国内会社3,922社(令和6年度末)については、会社数ベースでは約6割、時価総額ベースでは約9割を大手監査法人が監査しています。時価総額の大きい会社ほど事業の規模が大きく、複雑で国際的なため、多数の監査人員と多様な専門能力が求められ、大手以外では対応が難しいことが背景にあると同解説は述べています。海外子会社を多く持つ会社の監査では、世界ネットワークと連携して各国の監査を進める体制が要ることも、大手に仕事が集まる理由の1つです。
準大手・中小監査法人との違いは「規模と体制」にあります
大手以外の監査法人は、金融庁の資料では準大手監査法人と中小規模の監査事務所に分けて整理されています。準大手は大手に準ずる規模の法人、中小はそれ以外の法人や事務所を指します。違いは監査の資格や目的ではなく、担える仕事の規模と体制にあります。大手は人数が多く、業種ごとの専門チームや品質管理の専門部署を持ち、巨大で複雑な会社の監査に対応できます。準大手や中小は、地域に根ざした会社や中規模の上場会社などを中心に担当し、会社の規模に合った対応を取りやすい面があります。実際、会計監査人の異動では、大手から準大手や中小へ変更する会社も増えており、監査報酬の相当性や事業規模に適した監査対応が理由として挙げられていることが、同解説で紹介されています。
ただし、どの規模の監査法人でも、上場会社の監査を行うには同じ基準と品質管理が求められます。金融庁の審査会は、大手には原則として2年に一度の通常検査を行い、準大手や中小にも品質管理の状況に応じて検査を行っています。規模が小さいから基準が緩いというわけではなく、求められる監査の水準は共通です。会社にとっての監査法人の選択は、知名度だけではなく、自社の事業の複雑さ、海外拠点の有無、必要な専門分野、そして監査報酬とのバランスで考えるものだといえます。決算書を読む側にとっても、監査法人の名前は、その会社の事業の広がりや複雑さを映す手がかりの1つになります。
上場しても税理士が不要にならない理由 — 税務と監査は別の仕事です
上場すると監査法人が付くのだから、税理士はもう要らないのではないか。そう思われがちですが、税務と監査は別の仕事です。日本公認会計士協会の整理では、税理士の主な業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談などの税務であり、公認会計士の中心業務である監査とは役割が分かれています。会社は上場した後も、法人税などの申告書を作り、期限までに申告しなければなりません。その申告書の作成や税務相談は税理士の仕事であり、監査法人が代わりに行うものではありません。監査法人が確かめるのは、財務諸表が会計基準に沿って適正に表示されているかどうかであって、税金の申告そのものを作ることではないのです。
もう1つの理由は、独立性の考え方です。監査は、決算書を作った会社から独立した立場で確かめることに意味があります。自社の税務申告を日常的に手伝い、経営と近い位置で助言してきた相手が、そのまま決算書の適正さを保証する立場になると、確かめる側と作る側の距離が曖昧になりかねません。そのため実務では、監査を担う監査法人と、税務を担う税理士や税理士法人は、分けて委任する形が一般的です。公認会計士が税理士登録をすれば税務業務を行うこともできますが、それは資格の話であり、上場会社の監査と税務申告という2つの役割が1つに統合されるという意味ではありません。
- 監査法人の仕事:財務諸表が会計基準に沿って適正かどうかを、独立した立場で確かめて意見を表明することです
- 税理士の仕事:税務代理、税務書類の作成、税務相談です。申告の実務は上場後も毎期必要になります
- 会社の経理の仕事:決算書そのものを作ることです。作る、確かめる、申告するという3つの役割は分かれています
監査法人という存在は、決算書という数字に社会の信用を与えるための仕組みです。Big4と呼ばれる大手4法人は、世界ネットワークと大きな体制で複雑な大企業の監査を担い、準大手や中小の法人は規模に応じた会社を支えています。そして税理士の仕事は、監査とは別の軸として上場後も残り続けます。有価証券報告書で監査法人の名前を見たとき、その会社がどの規模の体制で数字を確かめられているのかを想像してみると、決算書の読み方が少し立体的になります。
出典(6件)
- 金融庁 公認会計士・監査審査会 令和7年版モニタリングレポートのポイント(監査役誌掲載) (2026/11/04確認)
- 日本公認会計士協会 公認会計士よくある質問Q&A (2026/11/04確認)
- PwC Japan有限責任監査法人 法人概要(PwC Japanグループ公式) (2026/11/04確認)
- 有限責任あずさ監査法人(KPMGジャパン公式) (2026/11/04確認)
- Deloitte Touche Tohmatsu LLC(デロイト トーマツ グループ公式) (2026/11/04確認)
- EY新日本有限責任監査法人 会社を知る(公式採用サイト) (2026/11/04確認)