取引先への発注書に、まだ「下請法」という言葉を使っていませんか。長く企業間取引のルールだった下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、2026年1月1日に施行された改正で名前も中身も変わり、「取適法」として再出発しました。加えて2024年11月には、個人のフリーランスとの取引を対象とする「フリーランス法」が施行されています。発注する側の企業にとって、この2つの法律は「知らなかった」では済まない実務のルールです。公正取引委員会・中小企業庁の公式情報をもとに、何が変わり、自社に何が求められるのかを整理します。

取適法とは——下請法の「改名」ではなく中身も変わった改正

取適法の正式な題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称が「中小受託取引適正化法」、通称が「取適法(とりてきほう)」です。改正法は2025年5月16日に成立し、同月23日に公布され、2026年1月1日に施行されました。新しい法律ができたのではなく、下請法そのものが題名から用語まで改められたもので、目的は中小受託取引の公正化と中小受託事業者の利益の保護です(公正取引委員会)。

委託事業者に課される4つの義務と、してはいけない行為

取適法で委託事業者に課される義務は大きく4つです。発注内容を書面または電磁的方法で明示する義務、取引に関する書類を作成して2年間保存する義務、受領した日から60日以内でできる限り短い期間内に支払期日を定める義務、そして支払遅延や減額をした場合に年率​14.6%の遅延利息を支払う義務です。禁止行為には、受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、物の購入・役務の利用の強制、報復措置、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しなどが並びます。違反すると公正取引委員会の勧告や指導の対象となり、発注内容の明示や書類保存の義務違反などには​50万円以下の罰金も定められています。

フリーランス法とは——相手が「従業員のいない個人・一人会社」の取引

もう一つの法律が、通称「フリーランス法」です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)で、2023年5月に公布され、2024年11月1日に施行されました。公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が所管します。対象になる受注者(特定受託事業者)は、従業員を使用しない個人と、代表者以外に役員がおらず従業員も使用しない法人です。業種の限定はなく、デザイナーやエンジニア、ライター、配送ドライバーなど幅広い働き手が想定されています。

2つの法律はどう違うか——実務では「両方を見る」のが基本

取適法とフリーランス法は、守ろうとする相手と決め方が違います。取適法は、取引の内容(製造委託など5種類)と、資本金・従業員数という規模の組み合わせで対象が決まる、企業間の取引の法律です。フリーランス法は、相手が「従業員を使用しない個人・一人会社」かどうかで決まり、取引条件の明示義務は発注側の規模を問わずかかります。そのため、取適法の対象にならない小さな発注でも、相手がフリーランスならフリーランス法の明示義務は生じます。個人の受注者が取適法上の中小受託事業者にも当たる場合は両法が重なる場面があり、公正取引委員会は、両方の法律に違反する行為については原則としてフリーランス法を優先して適用する考え方を示しています。

発注側企業への実務的影響——契約書より先に「発注の流れ」を点検する

実務への影響が大きいのは、個々の契約書の文言よりも、日々の発注・検収・支払いの流れです。まず、取引先ごとに「取適法の対象か」「相手は特定受託事業者か」を判定する仕組みが要ります。従業員基準が加わったことで、これまで資本金だけを見て「対象外」と判断していた会社も再判定が必要です。次に、価格の決め方です。原材料費や人件費の上昇を理由に受注側が協議を求めてきたとき、応じずに価格を据え置く運用は、取適法の新しい禁止行為に触れる可能性があります。協議の記録を残すことも含め、購買部門の手順を見直す企業が増えています。さらに、手形払いを前提にした支払サイトは対象取引では使えなくなり、資金繰りの前提も変わります。発注書の電子化が承諾なしで可能になった一方、記録の2年保存は引き続き求められます。

対象かどうかの判定で迷うポイント

取適法の対象判定は「取引の内容」と「規模」の両方を見るのが原則です。規模はまず資本金基準で判定し、それが当てはまらない場合に従業員基準(300人・100人)で判定する、という順序が公正取引委員会のテキストで示されています。また、取適法の規定が適用されるのは、原則として施行日の2026年1月1日以降に発注した取引です。それ以前に発注した取引には改正前の下請法が引き続き適用されると整理されています。「法律が変わった日」を境に、同じ取引先でも扱いが切り替わる点は、経理・購買システムの設定でも注意が必要です。

2つの法律に共通するのは、「立場の差を使って条件を押し付けない」という考え方です。発注する側にとっては負担の増加に見えますが、条件を書面で残し、協議に応じ、期日通りに払うという当たり前の取引の型を、会社全体でそろえる機会でもあります。自社の発注フローがどちらの法律にどう当たるか、一度棚卸ししておくことが、思わぬ勧告や公表を避ける近道になります。

出典(4件)