「ストックオプションで利益を得た」という話を聞いたことがある方は多いでしょう。ストックオプションとは、会社の役員や従業員が、将来、あらかじめ決められた価格で自社株式を取得できる権利です。会社の株価が上がれば上がるほど得をする仕組みのため、働く人の利益と株主の利益を一致させる報酬制度として使われてきました。このコラムでは、制度の仕組み、無償と有償の違い、そして税金の扱いを大きく変える「税制適格」の要件を、国税庁と経済産業省の公式資料で確認しながら整理します。

仕組み — 会社法の「新株予約権」が本体

ストックオプションの法的な本体は、会社法に定める「新株予約権」です。経済産業省の「インセンティブ報酬ガイダンス」(2025年2月)は、ストックオプションを「将来において一定の価格で株式を取得することができる権利、すなわち『新株予約権』を役員や従業員に付与するもの」と説明しています。付与された人は、権利行使期間内に「権利行使価額」と呼ばれる決められた金額を払い込んで株式を取得し(権利行使)、その株式を売却することで利益を得ます。利益の源泉は、売却価格から、ストックオプションの払込価額と権利行使価額を差し引いた差額です。

裏を返せば、株価が権利行使価額を上回らなければ、行使しても利益は出ません。権利行使には現金の払込みが必要な点も重要です。たとえば権利行使価額が​1株​1,000円で​1万株分を行使すれば、​1,000万円を用意しなければ株式は手に入りません。「権利をもらった=すぐにお金になる」わけではないのです。また、多くの制度では一定期間の勤務が行使の条件になっており、権利行使期間にも定めがあります。付与されたら、まず契約書で権利行使価額、行使できる期間、退職時の取扱いを確認することが大切です。

また、付与されてもすぐに行使できるとは限りません。多くの制度では、付与から一定期間が経過するまで行使できない期間や、段階的に行使可能になる条件が設けられます。税制適格の要件でも、行使は付与決議の2年後からと定められています。こうした時間の条件は、短期的な利益確定ではなく、中長期に会社に貢献してもらうための設計であり、株式報酬が「人材を引き留める」役割を持つ理由の一つです。

無償と有償で何が違うのか

ストックオプションには、対価を払わずに付与される「無償」のものと、適正な時価を払って購入する「有償」のものがあります。無償のものは、さらに税制適格かどうかで扱いが分かれます。有償のものは、対象者が自分のお金で新株予約権を買い取る形です。国税庁のQ&A(問2)では、適正な時価(例では50円)で有償取得した場合は取得時に経済的利益は発生せず、権利行使時にも課税関係は生じず、株式を売却したときに譲渡益として課税される例が示されています。例では、購入価額​50円と権利行使価額​200円の合計​250円を、売却価格​1,000円から差し引いた​750円が株式譲渡益になります。

有償型は、税制適格のような付与対象者の要件がないため、社外の協力者などにも付与しやすい一方、対象者にはまとまった金銭の払込みが必要になる、と経済産業省のガイダンスは整理しています。株価が下がれば、購入代金を回収できない可能性もあります。「買う権利」でありながら最初に投資をするかどうかが、無償型との大きな違いです。

税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションは、租税特別措置法第29条の2の要件を満たすもので、権利行使時の課税を株式の譲渡時まで繰り延べられる制度です。国税庁のQ&A(問6)が示す主な要件は次のとおりです。

課税関係の違いは、国税庁Q&Aの共通の例(付与時株価​200円、行使時​800円・権利行使価額​200円、譲渡時​1,000円)で比べると分かりやすくなります。税制非適格(無償)の場合、付与時には課税されませんが、行使時に​800円から​200円を差し引いた​600円が給与所得として課税され、売却時には​1,000円から行使時の株価​800円を差し引いた​200円が譲渡益として課税されます。これに対し税制適格の場合は、行使時には課税関係が生じず、売却時に​1,000円から権利行使価額​200円を差し引いた​800円全体が株式譲渡益として課税されます。課税のタイミングが遅くなるだけでなく、給与所得ではなく譲渡所得として扱われる点が、税制適格の大きな特徴です。

令和6年度改正 — 年間限度額が最大3,600万円に拡充

令和6年度税制改正では、年間権利行使価額の限度額の判定方法が変わりました。原則は従来どおり年間の合計額​1,200万円以下ですが、付与決議の日における会社の設立後の期間が5年未満の場合は権利行使価額を2で割って判定するため、実質的に​2,400万円までの行使が可能になりました。さらに、設立5年以上20年未満で、非上場会社または上場後5年未満の上場会社という一定の要件を満たす場合は3で割って判定し、実質的に​3,600万円まで可能になりました(経済産業省「ストックオプション税制」)。同じ令和6年度改正では、行使で取得した譲渡制限株式について、証券会社等への保管委託に代えて発行会社自身が株式を管理する仕組みも認められています。なお、この改正は令和6年分以後の所得税について適用され、それ以前は従前の取扱いです。

なお、付与の相手は社内の役員・従業員に限りません。経済産業省は、高度な知識または技能を有する社外の人材に対しても税制の適用対象を広げる「社外高度人材に対するストックオプション税制」を設けており、令和6年度税制改正では認定対象企業や社外高度人材の範囲が拡充されました。スタートアップが外部の専門家に協力を得る際の対価として、現金ではなく将来の株式取得権を渡す活用が想定されています。ただし適用には認定などの手続きを要し、要件は社内向けとは別に定められています。

RSUとの対比と、受け取る側の注意点

同じ株式報酬でも、RSU(譲渡制限付株式ユニット)は権利行使価額がなく、条件を満たせば株式そのものが交付されます。ストックオプションは「値上がり分だけ」が利益になるのに対し、RSUは「株式の価値そのもの」が報酬になります。その分、ストックオプションは株価が大きく上がった場合の見返りが大きくなりやすい一方、株価次第では無価値にもなります。どちらが有利かは株価の行方次第であり、一概には言えません。

受け取る側が押さえたいのは、自分のオプションが税制適格か非適格か、有償か無償かで、課税のタイミングと所得の種類がまったく違うことです。非適格(無償)の場合、行使した年に給与所得の課税が発生しますが、その時点では株式を売って現金化していないことも多く、納税資金の手当てが必要になります。付与を受けた際は、契約書と会社の説明資料で、権利行使価額、行使期間、税制適格かどうかを確認しておきましょう。個別の税務判断は、税務署や税理士への確認が確実です。

出典(3件)