NTTの株式数は約​905億株、三東工業社という会社の株式数は約​61万株。同じ上場企業なのに、発行済株式数は​1万倍以上も開きがあります。では、株式数が多い会社は「すごい会社」で、少ない会社は「小さい会社」なのでしょうか。結論から言えば、株数の多さそのものに良い・悪いはありません。このコラムでは、発行済株式数という数字の意味と、だまされない読み方を整理します。

発行済株式数とは何か

発行済株式数は、会社がこれまでに発行した株式の総数です。日本取引所グループ(JPX)の用語集は「会社が発行することをあらかじめ定款に定めている株式数(授権株式数)のうち、会社が既に発行した株式数」と定義し、普通株式のみを発行する会社では通常、発行済株式数と上場株式数は一致するとしています。

ここで大切なのは、株価の決まり方との関係です。会社の値段である時価総額は「株価×株式数」で計算されます(JPX用語集「時価総額」)。つまり株式数は、株価と掛け合わせて初めて会社の規模を表す数字になります。株数単体では、会社の大小も優劣も分かりません。

905億株のNTTと、61万株の会社

当サイトに収録した市場データ(2026年10月30日時点)から、時価総額÷株価で発行済株式数の目安を逆算してみました。株価と時価総額の両方がそろう​2,132社が対象です。

株式数の目安が多い会社と少ない会社(時価総額÷株価で逆算、2026年10月30日時点)
NTT15兆6,923億円
ソフトバンク11兆2,583億円
トヨタ自動車44兆8,066億円
グラフの数値をテキストで見る(5件)
  • NTT — 株価​173.3円、時価総額​15兆6,923億円。逆算した株式数は約​905億株で、対象企業のうち最大
  • ソフトバンク — 株価​234.2円、時価総額​11兆2,583億円。逆算では約​481億株
  • トヨタ自動車 — 株価​3,070円、時価総額​44兆8,066億円で日本最大級。逆算では約​146億株。株式数はNTTの6分の1ほどでも、会社の値段は約​2.9倍
  • 少ない側 — 三東工業社は株価​4,070円・時価総額​25億円で逆算約​61万株、ホーブは株価​1,017円・時価総額​7.7億円で約​76万株
  • 対象​2,132社の中央値 — 約​3,971万株

顔ぶれを見ると仕組みが分かります。株式数が多いのは、株価が​100円台の大きな会社です。逆に株式数が少ないのは、株価が数千円の小さな会社です。株数の多寡は、​1株の値段の裏返しにすぎません。どちらが良い・悪いという話ではなく、「会社の値段を何枚に切り分けているか」の違いなのです。なお、この逆算は時価総額が億円単位に丸められた値から計算した目安であり、公式の発行済株式数そのものではない点に注意してください。

株式分割で株数が増えても、価値は増えない

株式数が大きく動く代表的な場面が株式分割です。証券会社の用語解説では、株式分割は「​1株をいくつかに分割し、発行済みの株式数を増やすこと」とされ、「​1株を​2株に分割すると持ち株数は​2倍になるが、理論上​1株の価値は半分になるため、資産価値は変わらない」と説明されています。ピザを4つに切るか8つに切るかで、ピザ全体の量が変わらないのと同じです。

実際の開示でも確認できます。三井住友フィナンシャルグループは​1株を​2株にする株式分割を行い、発行済株式総数は分割前の​38億112万株から​76億225万株へ、ちょうど​2倍になりました(2026年8月の適時開示)。株数が倍になったからといって、会社の価値が倍になったわけではありません。株価が半分になることでつじつまが合います。

分割には実務的な意味もあります。​1株の値段が下がれば、最低投資金額が下がって買いやすくなります。ただし、それは「切り分け方」の変更であって、会社の稼ぐ力そのものの変化ではありません。

「自己株式を除く」という留保の意味

決算短信や自社株買いの開示では、「発行済株式数(自己株式を除く)」という表記が頻繁に出てきます。会社が買い戻して保有している自己株式には議決権がなく、配当も支払われません。そのため、​1株当たり当期純利益(EPS)の計算では、発行済株式数から自己株式数を差し引いた株数(期中平均)を使うことが、企業会計基準第2号で定められています。

株式数が増える場面は分割だけではありません。新株発行(増資)で調達すれば株数は増えますが、増えた株数に見合う資金が会社に入るため、単純な希薄化とは限りません。逆に、自社株買いや株式併合では株数が減ります。増減そのものより、「なぜ増えたのか・減ったのか」と「​1株当たりの数字がどう変わったのか」をセットで読むことが大切です。

分割の実例は身近な会社にもあります。証券会社の公式コラムで確認できる範囲でも、第一三共の5分割(2024年10月)、トリドールの10分割(2025年10月)、富士フイルムホールディングスの3分割(2024年4月)、ニトリホールディングスの3分割(2023年4月)など、大型の分割が相次いでいます。分割直後は発行済株式数が一気に数倍になるため、「株数が急増した会社=増資で薄まった」と早合点すると読み違えます。分割なのか、新株発行なのかは、開示の表題を見れば区別できます。

株数はどこで確認できるのか

発行済株式数は、決算短信や適時開示の中で確認できます。実例として、自社株買いの開示では「発行済株式総数(自己株式を除く)」と「自己株式数」が必ず併記されます。キオクシアホールディングスの2026年7月の開示では、発行済株式総数(自己株式を除く)が​548,014,638株、自己株式数が​450株と示されていました。リクルートホールディングスの開示でも、発行済株式総数(自己株式を除く)​1,482,740,881株に対し自己株式数​167,101,068株と、2つの数字が並んでいます。大きな会社では、自己株式だけで​1億株を超えることもあるのです。

この2つを分けて見る習慣がつくと、ニュースの読み方が変わります。「発行済株式数が減った」という話は、株式併合(分割の逆で、複数の株式を1株にまとめる)や自己株式の消却で起きます。逆に増えるのは、分割と新株発行です。数字の増減を見たら、まず「どの手続きで変わったのか」を開示で確かめることが、誤解を避ける近道です。

なお、​1株当たり指標はEPSだけではありません。BPS(1株当たり純資産)は、純資産から非支配株主持分などを除いた金額を、同じく自己株式を除く期末の発行済株式数で割って求めます(企業会計基準)。発行済株式数が減ればBPSも機械的に上がり、増えれば下がります。「​1株当たり」という数字の裏側には、常に株数の設計があることを覚えておくと、指標のニュースが立体的に読めるようになります。

株数ではなく、この3つを見る

発行済株式数は、それ自体が会社の良し悪しを語る数字ではありません。​905億株のNTTも​61万株の三東工業社も、株数は「値段の切り分け方」を示しているにすぎません。株数の多さに驚いたら、株価と掛け算して時価総額に直す。それだけで、この数字に惑わされることはなくなります。

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出典(5件)