新しい技術を開発した会社が「特許を取得しました」と発表する場面はよくあります。けれども特許は、役所に書類を出せば自動的にもらえるものではありません。出願し、審査を請求し、審査を通って、料金を納めて初めて権利が生まれます。しかも守りたいものが技術なのか、デザインなのか、名前なのかで、使う権利の種類も費用も変わります。このコラムでは、特許庁の公式資料をもとに、産業財産権の4つの種類、特許を取るまでの流れと費用の階段、そして企業で生まれた発明が誰のものになるのかを考えさせた青色LEDの事例までを整理します。

産業財産権は4種類 — 技術、工夫、デザイン、名前

特許庁が所管する産業財産権には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つがあります。特許権は発明、つまり技術的な工夫によって生まれた新しいアイデアを守る権利です。実用新案権は、物品の形状や構造などに関する考案を守ります。意匠権は製品などのデザインを、商標権は商品やサービスに使う名前やロゴマークといったブランドを守る権利です。同じ新製品でも、仕組みは特許、見た目は意匠、商品名は商標と、守る対象ごとに権利を使い分けるのが基本です。なお、特許権、意匠権、商標権は特許庁の審査を通らなければ権利を取得できませんが、実用新案権は権利の付与に審査官による審査を必要としない点が大きく異なります。

出願から登録まで — 特許の流れ

特許の手続きは段階を踏みます。まず明細書などをそろえて特許庁に出願します。出願した内容は、原則として出願から​18か月が経過すると公開されます。ここで注意が必要なのは、出願しただけでは審査が始まらないことです。出願から3年以内に出願審査請求を行わなければ、審査そのものを受けられません。審査では、すでに知られた技術と比べて新しいかどうか、容易に思いつくものではないかなどが判断されます。拒絶の理由が通知されることもあり、その場合は意見書や補正書で応答します。審査を通ると特許査定となり、第1年分から第3年分までの特許料を納めることで特許権が設定登録され、特許証が交付されます。登録された内容は誰でも調べることができ、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で無料で検索できます。

費用は3つの階段 — 出願料、審査請求料、特許料

特許庁に納める料金は、手続きの段階ごとに分かれています。特許庁の料金一覧(令和6年4月1日時点の主要料金)では、特許出願の出願料は​14,000円です。次に、出願審査請求料は​138,000円に、請求項の数に​4,000円を掛けた額を加えた金額になります。請求項とは、権利を取りたい発明の範囲を文章で区切った単位で、数が増えるほど審査請求料も特許料も増えます。そして登録後は、権利を維持するための特許料を毎年納めます。第1年から第3年までは毎年​4,300円に1請求項あたり​300円を加えた額、第4年から第6年までは毎年​10,300円に同​800円、第7年から第9年までは毎年​24,800円に同​1,900円、第10年から第25年までは毎年​59,400円に同​4,600円を加えた額です。年数が進むほど維持費が上がる設計になっており、使い続ける価値がある権利かどうかを会社が判断し続ける仕組みでもあります。

ほかの権利の出願料も見ておきます。実用新案登録出願は​14,000円で、出願時に第1年から第3年までの登録料も併せて納めます。意匠登録出願は​16,000円、商標登録出願は​3,400円に区分数に​8,600円を掛けた額を加えた金額です。商標の登録料は区分数に​32,900円を掛けた額となります。これらは特許庁に納める料金のみで、弁理士に書類作成や手続きを依頼する場合は、その費用が別にかかります。また、中小企業などを対象に審査請求料や特許料が軽減される減免制度もありますが、対象や割合は条件で変わるため、利用する際は特許庁の最新の案内で確認してください。

出願の前に欠かせないのが、先行技術の調査です。出願した内容は原則​18か月で公開されるため、審査で権利にならなかった場合でも、技術の中身は世の中に知られることになります。J-PlatPatでは、特許や実用新案、意匠、商標の公報をキーワードや分類から無料で検索でき、出願済みの似た技術があるかを自分で確かめられます。会社が研究開発の成果を守るときは、「出願するかどうか」だけでなく「公開されてもよい内容か」「権利として維持し続ける価値があるか」まで含めて判断している、という点も特許の仕組みの重要な側面です。

4つの権利の中で、商標権だけは更新によって長く使い続けられる点が特徴です。登録から10年でいったん満了しますが、更新すれば同じブランドを守り続けられます。長年使われる商品名や企業ロゴが商標として大切に管理されるのは、この仕組みがあるからです。反対に、特許権や意匠権には更新の仕組みがなく、期間が過ぎれば誰もが使える技術やデザインになります。会社にとっての権利の価値は、種類ごとの寿命の違いによっても変わってくるのです。

どんな企業が特許を取っているか

特許は、自動車や電機のように製品の性能が技術で決まる産業で特に多く使われます。当サイトに収録しているトヨタ自動車や三菱電機も、そうした製造業の企業です。ただし、特許の件数だけで技術力を測ることはできません。出願しても公開までは時間がかかり、審査を通らなければ権利にならず、維持費を払い続けなければ消えてしまうからです。取得した権利の使い道も、自分の製品を守るためだけではありません。他社に使わせてライセンス料を得たり、他社と互いの権利を使い合ったり、事業の提携や売却の場面で資産として評価されたりします。特許庁は毎年「特許行政年次報告書」を公表し、出願や登録の動向をまとめています。企業の技術力を読むときは、件数の多さよりも、どの分野の権利を持ち、それを製品や事業にどう使っているかを見ることが大切です。

有名な特許の読み方 — 青色LEDと職務発明

特許が社会の注目を集めた代表例が青色発光ダイオード(青色LED)です。2014年のノーベル物理学賞は、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏に、「明るく省エネルギーな白色光源を可能にした、効率的な青色発光ダイオードの発明」に対して贈られました。中村氏は当時、日亜化学工業で研究を行っていたことでも知られます。この発明をめぐっては、会社で働く研究者が生んだ発明、つまり職務発明の対価をどう決めるかが争われ、裁判の末に和解で決着した経緯があります。特許は会社の事業を守る資産である一方、その中身を生んだのは個々の研究者です。発明の対価の決め方を社内でどう定めておくかは、研究開発を行う会社にとって、技術そのものと同じくらい重要な経営課題だということを、この事例は示しています。

特許を読む力は、企業の発表をそのまま受け取るのではなく、「何を守る権利を、どの段階まで進めたのか」を確かめる力です。出願と登録は別の出来事であり、権利には寿命と維持費があります。次に特許のニュースを見かけたら、種類、分野、そしてその権利が製品にどう結びついているかを目で追ってみてください。

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