日本の上場企業の中で、法律によって「政府が株を持ち続けなければならない」と決められている会社があります。NTT(旧・日本電信電話)です。その根拠が「NTT法」、正式には「日本電信電話株式会社等に関する法律」です。2025年度(2026年3月期)の連結営業収益が​14兆4,091億円に達する巨大グループの親会社が、なぜ今も特別な法律の下にあるのか。条文の内容と、2024〜2025年の見直しの到達点、そして電気・ガス・鉄道・水道といった他のインフラ分野の法律との違いを、総務省とe-Gov法令検索の一次情報で確認します。

NTT法の成り立ちと対象——持株会社と東西の3社だけを定める法律

NTT法は昭和59年(1984年)の法律第85号で、日本電信電話公社の民営化に合わせて制定されました。法律の第1条が定める対象は、持株会社である会社(現在のNTT株式会社)と、東日本電信電話株式会社、西日本電信電話株式会社(地域会社、いわゆるNTT東日本・NTT西日本)の​3社です。NTTドコモやNTTデータグループなど、他のグループ会社はこの法律の直接の対象ではありません。会社は地域会社の発行済株式の総数を保有しなければならないと定められており、東西が持株会社の完全子会社である構造自体が法律で固定されています。東西の業務についても、県内通信を中心とする地域電気通信役務の提供などが法律とその枠組みの中で定められてきました。

株式にまつわる2つの規制——政府保有3分の1と外国人議決権の制限

2024年と2025年の改正——責務は外れたが、法律は残った

見直しの議論は、総務省の情報通信審議会で進められました。2023年8月に「市場環境の変化に対応した通信政策の在り方」が諮問され、2024年2月の第一次答申を踏まえて、同年4月に改正NTT法が成立・施行されました。この改正では、NTT持株・東西に課されていた研究開発に関する責務(研究の推進と成果の普及)の廃止、外国人役員規制の緩和、商号変更を可能とする措置などが盛り込まれました。これを受けて持株会社は2025年7月1日に、社名を日本電信電話株式会社からNTT株式会社へ変更しています。

続く2025年には、情報通信審議会の最終答申(2025年2月)を踏まえ、「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」(令和7年法律第46号)が同年5月に成立しました。内容は、電話・ブロードバンドについて、他の事業者が提供しない区域で提供の責務を負う「最終保障」の仕組みを設けることや、NTT東西の業務の範囲の見直しなどで、この法律は2026年5月に施行されています(総務省・令和8年版情報通信白書)。一方で、政府の株式保有義務や外国人等の議決権制限は、現行の条文にも残っています。審議の過程ではNTT法の廃止を求める声と、公正な競争条件の維持を求める声の双方がありましたが、2026年11月時点で「廃止が決まった」という事実はありません。正確には、部分的な改正が2年続けて行われ、法律そのものの存廃を含む議論が続いている、という段階です。

他のインフラにも「業法」がある——電気・ガス・鉄道・水道との対比

対比して分かるのは、インフラの法律の多くが「業界全体のルール(業法)」であるのに対し、NTT法は「特定の会社のあり方そのものを定める法律」という点で異例だということです。これは、全国の電話網を担ってきた公社を民営化する際に、通信の安定提供と国の関与を両立させるために選ばれた形でした。背景には、NTT東西が公社時代から引き継いだ膨大な通信設備を持ち、電話やブロードバンドのユニバーサルサービス(全国あまねく提供されるべき基礎的なサービス)を担ってきた事情があります。

なぜ「廃止か存続か」が論点になるのか

見直し論の背景には、立場による主張の違いがあります。2024年の改正をめぐっては、携帯電話事業で競合するKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの​3社が共同で、NTT法の廃止に反対し、あり方について慎重な政策議論を求める見解を発表しました。NTTは公社時代の資産や全国の通信設備を引き継いでいるため、法律による歯止めを外せば公正な競争条件が損なわれる、というのが競合側の主張の軸です。一方、NTT側や改正を推進する側からは、研究開発や海外展開など国際競争の面で法律の制約が足かせになる、という指摘が出てきました。2024年改正で研究開発の責務が外され、外国人役員の規制が緩和されたのは、この「国際競争力」の論点に応えた部分です。

つまり、ここ数年の改正は「廃止」か「現状維持」かの二択ではなく、責務や規制を項目ごとに外し、残すものを選び直す作業として進んできました。政府の株式保有義務と外国人等の議決権制限という、株式にまつわる2つの規制が現行条文に残っていることは、その選び直しの結果として読むことができます。今後の焦点も、法律全体の存廃という大きな話と、個別の規制をどうするかという具体的な話の、両方に目を配る必要があります。

ちなみに、持株会社の社名が「NTT株式会社」に変わった後も、法律の題名は「日本電信電話株式会社等に関する法律」のままです。条文の中で「会社」とは持株会社を指す、という定義の置き方をしているためで、ニュースや決算資料で「NTT法」と呼ばれる法律の正式名称には、旧社名が残り続けています。

NTT法をめぐる議論は、単なる一企業の規制緩和の話ではありません。政府保有株のあり方は国の財政や株式市場にも関わり、東西の業務範囲は通信分野の競争条件に関わります。条文がどう変わったかはe-Gov法令検索で誰でも確認できます。ニュースで「廃止」「存続」といった言葉を見かけたら、成立した改正の内容と、まだ議論の段階にある話を分けて読むことが、このテーマでは特に大切です。

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