「日本にはAIの会社はないのでは」。そんな声を聞くことがあります。生成AIの主役は米国の巨大IT企業に見えますが、日本にも、世界のAI研究の第一線に名前を連ねる会社があります。しかも​2社とも上場していません。このコラムでは、Sakana AIとプリファードネットワークス(PFN)という​2社の素顔を、各社の公式発表で確認できる範囲で紹介します。

Sakana AI — 魚の群れの知能をAIに

Sakana AIは、2023年7月に東京で設立されたAIの研究開発企業です。社名の「Sakana(魚)」が示す通り、魚の群れのような「集合知能」を研究の中心に置き、進化の仕組みで複数のAIモデルを組み合わせて新しいモデルを生む「Evolutionary Model Merge」や、AIが研究自体を進める「The AI Scientist」などの研究で知られます。成果は国際会議ICLRやNeurIPS、学術誌Natureに掲載されています(同社公式)。

資金調達の規模も異例です。2024年9月にシリーズAで合計約​300億円を調達し、2025年11月に発表したシリーズBは、2026年4月の更新時点で総額約​320億円、調達後の評価額は約​4,320億円、累計調達額は約​660億円に達したと公式に公表しています。出資者にはNVIDIAやGoogleに加え、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、NEC、富士通、KDDI、野村ホールディングスなど、日本の大企業がずらりと名を連ねます。上場していない会社にこれだけの資金と評価が集まること自体が、日本のAIへの期待の表れと言えます。

研究だけの会社ではありません。Sakana AIは、複数の大規模言語モデルを組み合わせて動かす「Sakana Fugu」、自律的に研究を進めるエージェント「Sakana Marlin」、対話サービスの「Sakana Chat」などを製品として掲げています。研究成果を論文で終わらせず、金融機関など実際の顧客の業務に接続しようとしている点が、同社のもう一つの顔です。

シリーズBの第一弾として2025年11月、日本政策投資銀行が株主に加わったことも注目点です。政策金融機関が未上場のAIスタートアップに出資するのは珍しく、政府系の関心の表れと見ることができます。トヨタ系の投資ファンドや三菱UFJ銀行もシリーズBの参加者に名を連ねており、大企業・金融機関・政策金融が同じテーブルにつく資金調達になっています。

プリファードネットワークス — チップからモデルまで自社で作る

プリファードネットワークス(PFN)は、2014年3月26日に設立された深層学習の会社です。Sakana AIより9年早く、日本のAIスタートアップとしては草分けの存在です。特徴は、AIの技術基盤を下から上まで自社で持っていることです。同社の公式説明では、AI半導体、計算基盤、生成AIの基盤モデル、製品・ソリューションという4つの層すべてを自社で開発・提供するとしています。

資金面でも、大企業との結びつきが目立ちます。トヨタ自動車とは2014年から共同研究を続け、2017年にはトヨタが約​105億円を追加出資しました(トヨタの公式発表)。PFNは無名のベンチャーに大企業が賭けた例ではなく、自動運転などモビリティ分野の共同研究の相手として選ばれてきた会社です。直近では2024年12月、SBIグループをリードとする第三者割当増資と融資で、総額​190億円の資金調達(ファーストクローズ)を発表しています。使途は、MN-Coreの開発加速やPLaMoの性能強化、計算基盤の拡充です。

モデル開発では、国産の大規模言語モデル「PLaMo」を育てています。PLaMoはPFNが開発するLLMシリーズの基盤モデルの総称で、日本語と日本の知識に強いモデルを目指す取り組みです。計算資源(MN-CoreとPFCP)とモデル(PLaMo)と応用(産業への実装)を​1社でつなぐ構造は、米国の巨大IT企業に対する日本流の対抗軸として設計されています。

PFNの計算基盤は、外部のクラウドを借りるのではなく自社で構築・運用し、「PFCP」として外にも提供しています。2024年10月には、MN-Core 2を計算資源とするサービスの提供を始めました(同社の資金調達発表)。半導体を設計し、その半導体で計算基盤を組み、その上で国産モデルを育てる。米国でもこの一貫体制を​1社で持つ例は多くなく、PFNの最大の特徴です。

株主の顔ぶれも、​2社の性格を表しています。PFNの公式発表に名前が並ぶ株主は、トヨタ自動車、NTT、ENEOSホールディングス、ソニーセミコンダクタソリューションズ、三井物産、みずほ銀行など、日本を代表する事業会社と金融機関です。産業の現場を持つ大企業がAIの基盤企業に出資し、技術を自社に取り込もうとする動きが見えます。

2社に共通する、日本のAIの形

なお、両社は非上場のため、当サイトの上場企業データには収録されておらず、非上場企業の特集にも現時点では掲載していません。株価や決算短信で追うことはできませんが、それは存在しないこととは違います。「日本のAI企業はあるのか」という問いへの答えは、この​2社の存在が示す通り「ある。ただし、上場市場ではなく、研究と未公開の資金調達の世界にいる」です。

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