「令和9年(2027年)4月から、飲食料品の消費税が1%になる」。この話を聞いて、決まったことだと思っていませんか。先に結論を書きます。2026年11月5日時点で、これは国会で審議中の「法案」の段階であり、成立した制度ではありません。国税庁の特設サイト自身が「内容については、今後、法案が国会に提出され、審議を経た上で可決・成立した場合のものです」と明記しています。このコラムでは、案の段階であることを前提に、中身と、成立した場合に何が変わるのかを整理します。
いまどの 段階か — 大綱の 決定から 法案の 審議まで
- 令和8年9月15日 — 政府が「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定
- 令和8年10月9日 — 法案「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」が閣議決定され、第222回国会に閣法第1号として提出された
- 令和8年10月20日 — 衆議院の財務金融委員会に付託
- 2026年11月5日時点 — 衆議院の議案審議経過情報では、本会議での審査終了・議決、参議院での審議、公布のいずれも未記入で「衆議院で審議中」。成立していない
つまり、案の骨格は政府として固まって国会に出されたものの、法律として決まるかどうかは今後の審議次第、という段階です。以下で述べる税率や期間は、すべて「法案がこの内容で成立した場合」の話として読んでください。
案の中身 — 2年間だけ、 飲食料品を 8%から 1%へ
法案と大綱が示す案の柱は次の通りです。対象は国内で行われる飲食料品の譲渡と、保税地域から引き取られる飲食料品です。税率は消費税0.78%に地方消費税0.22%相当を合わせた1%で、現在の軽減税率8%(消費税6.24%+地方消費税1.76%)から7ポイント下がります。期間は令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間に限られ、その後は8%に戻る設計です。給付付き税額控除の本格導入(令和11年度)までの「つなぎ」と位置づけられています。
- 税率 — 飲食料品の譲渡について1%(消費税0.78%+地方消費税0.22%)。標準税率10%と新聞の8%は現行維持
- 期間 — 令和9年4月1日〜令和11年3月31日の2年間
- 地方の減収分 — 地方消費税が減る分は、地方特例交付金で全額を補塡する設計
- セットの制度 — 就業者負担軽減支援金(給付)を併せて導入。令和9・10年度は「飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲」で実施する
- 実施の準備 — 国税庁は特設サイトでリーフレットやQ&Aを公表し、改正後の申告書様式のドラフトまで掲載している。ただしこれらは成立を前提とした案内である
なお、税率を1%に下げる前の飲食料品の税率は、消費税6.24%と地方消費税1.76%を合わせた8%です(2019年10月の軽減税率導入時からの姿)。案の1%は、消費税0.78%と地方消費税0.22%に分解されます。「8%から1%へ」という見出しの裏側には、この国税と地方税の配分の設計があることも、大綱と法案を読むと分かります。
対象に なるもの、 ならないもの
法案が対象とする「飲食料品」は、現在の軽減税率(8%)の適用対象となっている飲食料品と同じ範囲と定義されています。現在の線引きは国税庁のタックスアンサー(No.6102)で確認できます。
- 対象になる(現在8% → 案では1%) — 酒類を除く飲食料品の販売。スーパーやコンビニで買う食品・飲料、持ち帰り(テイクアウト)、出前・宅配
- 対象にならない(10%のまま) — 酒類、外食(飲食設備のある場所での食事の提供)、ケータリング等
- 変わらない(8%のまま) — 週2回以上発行される新聞の定期購読
同じ弁当でも、持ち帰れば案の対象、自宅ではなく店内で食べれば外食として10%のまま、という線引きは現在の制度と同じです。ただし税率差は大きく広がります。現在、持ち帰り(8%)と店内飲食(10%)の差は2ポイントですが、案が実施されれば1%と10%で9ポイント差になります。
成立した 場合、 何が変わるのか
家計への影響は、計算で確認できます。税抜価格が変わらないとすれば、税抜1,000円の飲食料品は、現在は税込1,080円、案の期間中は税込1,010円となり、1回あたり70円の差が出ます。総務省統計局の家計調査(2025年平均)では、二人以上の世帯の食料への支出は月94,895円、消費支出全体(月314,001円)の3割近くを占めます。ただし、この「食料」には外食(月16,563円)や酒類(同3,784円)が含まれており、案の対象範囲と一致するものではありません。対象分だけを取り出した正確な軽減額は、この統計からは計算できない点に注意してください。
企業側への影響も読み取れます。食品を扱う小売・外食・食品メーカーは、価格表示やレジ・システムの対応が必要になります。国税庁が事業者向けの説明や様式ドラフトを早い段階から公表しているのは、その準備期間を確保するためです。また、持ち帰りと店内飲食の税率差が9ポイントに広がれば、飲食店の価格設定や「持ち帰り需要」の動きにも影響しうる、というのが案の構造から言える範囲です。実際に値下げがそのまま価格に反映されるかどうかは、各社の価格政策次第であり、ここでは断定しません。
法案の 条文で 見る実施の設計
法案の条文(衆議院の議案本文)まで見ると、実施の細部が分かります。第2条は、対象を消費税法の別表第一第一号に掲げる飲食料品の譲渡とし、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの間に行われるものについて、消費税法29条の規定にかかわらず税率を0.78%とする特例を定めています。施行期日は附則で令和9年4月1日とされ、総額表示に関する特例の一部は令和9年2月1日から先行する設計です。
セットで導入される就業者負担軽減支援金については、法案第10条が、令和9年度分の支援金の総額は「税率を下げることによる飲食料品の消費税収入の見込額(地方消費税分を含む)を超えないよう考慮して定める」としています。つまり支援金の規模は、減税で減る税収の見込みと連動させる設計です。ただし、その見込額の具体的な数値は、法案や大綱の一次資料には書かれていません。
まだ決まっていないこと
- 成立するかどうか — 審議中であり、修正・廃案の可能性も含めて未定
- 財源 — 大綱は、令和9・10年度分は特例公債に頼らず歳出入の見直し等で確保し、「令和9年度の予算編成過程において結論を得る」としている。財務大臣も提出時点の会見で、財源の具体像は今後の予算編成プロセスで示すと述べている
- 減収の規模 — 政府の一次資料(大綱・法案)の範囲では、減収見込み額の公式な数値は今回確認できていない
このコラムは、案の段階の記録として書きました。飲食料品の消費税1%は、成立すれば家計にも食品関連の企業にも大きな制度変更ですが、2026年11月5日時点では「審議中の法案」です。続報を追うときは、成立したかどうかと、財源の結論が出たかどうかを分けて確認することをおすすめします。
出典(5件)
- 国税庁「消費税率引下げ特設サイト」(内容は法案の可決・成立が前提である旨を明記) (2026/11/05確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.6102「消費税の軽減税率制度」(現行の対象範囲:酒類・外食・ケータリングの扱い) (2026/11/05確認)
- 衆議院「議案審議経過情報」閣法 第222回国会 第1号(提出2026年10月9日、財務金融委員会に付託、審査・公布欄は空欄) (2026/11/05確認)
- 内閣官房「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」(令和8年9月15日閣議決定) (2026/11/05確認)
- 総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要」(食料 月94,895円、二人以上の世帯) (2026/11/05確認)