上場企業のニュースでたびたび登場する「金融商品取引法」。名前は知っていても、会社法や法人税法と何が違うのかは、意外と整理されていません。このコラムでは、金融商品取引法が何を定める法律なのかを条文から確認し、三つの法律の役割分担を読み解きます。

三つの法律は、いずれも「会社」に関わる法律ですが、目線の高さが異なります。会社法は会社を内側から、法人税法は税金の計算という角度から、金融商品取引法は市場と投資家という外側から、会社を見ています。

金融商品取引法の目的――第1条が示す守備範囲

金融商品取引法第1条は、この法律の目的を、企業内容等の開示の制度を整備し、金融商品取引業を行う者について必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保することなどにより、有価証券の発行や金融商品等の取引等を公正にし、国民経済の健全な発展と投資者の保護に資することと定めています。キーワードは「開示」「業者」「取引所」、そして「投資者保護」です。

第1条の文面で注目したいのは、保護の対象が「投資者」と明記されている点です。金融商品取引法は、会社そのものの設立や運営のやり方を決める法律ではなく、証券市場に参加する投資家が、不公正な取引や情報の不足によって不利益を被らないようにするための法律です。この立ち位置が、会社法との大きな違いです。

もとの法律は証券取引法でした。金融庁の公表資料によれば、証券取引法等の一部を改正する法律などが2006年6月14日に公布され、改正の柱は、投資性の強い金融商品に対する横断的な投資者保護の法制、開示制度の充実、取引所の自主規制機能の強化、不公正取引への厳正な対応の四つでした。この改正によって2007年に施行され、法律の名前も金融商品取引法に改められました。

改正の内容には、取引のルールに関する見直しも含まれていました。金融庁の公表資料によれば、株式公開買付け(TOB)の制度や、大量保有報告制度(いわゆる5パーセントルール)の見直しも、このときの改正事項に含まれます。法律の名前が証券取引法から金融商品取引法へ変わったのは、株式や債券といった「証券」にとどまらず、より幅広い金融商品を横断的に捉える法律へと性格を広げたことの表れです。

大量保有報告制度(5パーセントルール)は、発行済株式等の5パーセントを超える保有について報告を求める制度であり、株式公開買付け(TOB)の制度と並んで、会社の支配に影響する株式の動きを見える化する仕組みです。いずれも2006年の改正で見直しの対象となりました。

開示制度――有価証券報告書という情報公開

開示制度の中心が有価証券報告書です。第24条は、金融商品取引所に上場されている有価証券などを発行する会社は、事業年度ごとに、会社の商号や、企業集団および会社の経理の状況などを記載した有価証券報告書を、事業年度が終わってから​3か月以内に内閣総理大臣へ提出しなければならないと定めています。2006年の改正では、四半期報告制度の法定化や、財務報告に係る内部統制報告の導入など、開示の充実が図られました。

開示は、投資家が判断材料を持てるようにするための仕組みです。会社法にも計算書類の作成義務は置かれていますが、金融商品取引法の開示は、不特定多数の投資家に向けた市場への情報公開である点に特徴があります。

有価証券報告書の提出期限が「事業年度経過後3月以内」と定められていることは、株主総会の時期とも重なります。会社法の定時株主総会が決算後一定の時期に開かれることと合わせると、決算から​3か月前後が、日本の上場会社にとって情報開示と意思決定の山場になっていることがわかります。

開示の対象となる書類は、有価証券報告書だけではありません。多くの投資家に向けて有価証券の募集や売出しを行うときの届出の仕組みに加え、第24条の文言が触れている四半期報告書(第24条の4の7)や半期報告書(第24条の5)など、事業年度の途中での報告も制度化されています。開示は、年1回の決算情報だけでなく、継続的な情報提供の仕組みとして組み立てられているのです。

不公正取引の禁止――市場の信頼を守る線引き

もう一つの柱が、不公正な取引の禁止です。第157条は不正行為の禁止として、有価証券の売買その他の取引について不正の手段、計画または技巧を用いることや、重要な事項について虚偽の表示がある文書などを使って金銭その他の財産を取得すること、虚偽の相場を利用することなどを禁じています。第158条は風説の流布や偽計、暴行・脅迫を、第159条は相場操縦行為等を禁じています。

とくに知られているのが、第166条のインサイダー取引規制です。会社関係者が、その会社の業務等に関する重要事実を知った場合、その重要事実の公表がされた後でなければ、その会社の特定有価証券等の売買等をしてはならないと定められています。内部の情報を利用した取引を封じ、市場の公平さを守る規定です。

インサイダー取引規制が禁じているのは、重要事実を知っていること自体ではなく、それが公表される前に売買等を行うことです。公表された後に取引することは妨げられません。情報の優位を時間の面でならし、誰もが同じ情報に接してから取引できる状態を作る点に、この規制の考え方があります。

これらの禁止規定は、上場会社の役員や証券会社の社員だけに向けられたものではありません。第157条、第158条、第159条はいずれも「何人も」を主語としており、市場で取引するすべての人が対象です。市場の公正は、参加者全員が守るべき土台として設計されています。

会社法・法人税法との役割分担

三つの法律は、対象が異なります。会社法は第1条で、会社の設立、組織、運営および管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除きこの法律によると定める、会社の基本法です。株主総会や取締役会の仕組みのほか、計算書類等の作成も会社法に置かれています(第435条)。法人税法は、法人の各事業年度の所得の金額を、益金の額から損金の額を控除した金額として計算するなど、法人税の課税と税額計算のルールを担います。

三者は無関係ではありません。会社法に基づいて作られた計算書類は株主総会で承認され、その決算の数字をもとに、法人税法のルールで調整を加えて税額を計算するのが実務の流れです。上場会社であれば、その情報は金融商品取引法の開示制度を通じて投資家にも届けられます。一つの会社の決算が、三つの法律の交点に立っているのです。

実務では、経理部門が会社法の計算書類と法人税の申告を担い、上場会社では開示の担当が金融商品取引法の報告書を担うなど、社内の担当が分かれることも珍しくありません。それだけ、三つの法律は求める視点が異なるということです。

金融商品取引法は、「会社の中身の作り方」ではなく、「市場での取引と情報公開」を公正に保つための法律です。会社法が組織を、法人税法が税額計算を担うのに対し、金融商品取引法は、投資家が安心して参加できる市場の土台を担います。役割の違いが見えると、経済ニュースに登場する法律の名前も読み分けやすくなります。

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