企業のホームページや名刺で、環境や社会への取り組みを示すロゴを見かけることがあります。「ESGマークを取得しました」という表現を目にすることもありますが、実は「ESGマーク」という名前の統一された公的制度は存在しません。ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、企業の取り組みを見る観点そのものを指す言葉です。1つの窓口に申請して1つのマークがもらえる仕組みではなく、実際には性質の異なる複数の制度や評価が組み合わさって使われています。このコラムでは、混同されやすい代表例を取り上げ、何がどう違うのかを整理します。
まず押さえたい 3つの 種類 — 認証、 目標の 検証、 スコア
実在する仕組みは、大きく3種類に分けられます。1つ目は、定められた基準を満たした事業者を第三者が審査して登録する「認証・登録制度」です。2つ目は、企業が自ら立てた目標が科学的な基準に合っているかを外部機関が確かめる「目標の検証」です。会社そのものではなく、目標の中身が審査対象になります。3つ目は、質問への回答内容を採点して公表する「スコア型の評価」で、合格・不合格ではなく成績として示されます。このほかに、投資家が銘柄を選ぶ際の物差しとなる指数もありますが、指数は企業が申請して取るものではありません。ロゴを見たときは、まず「どの種類の仕組みか」を確かめることが大切です。
認証・登録の 例 — エコアクション 21と 健康経営優良法人
エコアクション21は、環境省が中小企業者向けに作成した環境マネジメントシステムにもとづく認証・登録制度です。環境経営システムを構築・運用し、環境経営レポートを作成・公表した事業者が、審査人による書類・現地審査を受け、適合と認められれば中央事務局である一般財団法人持続性推進機構に登録されます。認証・登録の期間は2年で、おおむね1年後に中間審査を受けます。費用は公表されており、審査費用は審査人1人1日あたり5万円(消費税別)で、従業員30人以下なら標準で2人日です。認証・登録料は2年分で、従業員10人以下が5万円、11人から300人以下が10万円(いずれも消費税別)など、規模に応じて決まります。
混同されやすいものに、経済産業省が2016年度に創設した健康経営優良法人認定制度があります。これは従業員の健康管理を経営の視点で実践する法人を、日本健康会議が認定する制度で、対象は「環境」ではなく働く人の健康です。ESGそのものではありませんが、ロゴマークを掲げる認定制度という点が似ているため、同じ棚に並べて語られがちです。規模感の参考として、健康経営優良法人2026では大規模法人部門で3,765法人、中小規模法人部門で23,085法人が認定されました。認定制度と聞いても、環境の制度なのか健康の制度なのか、分野を確認する必要があります。
目標の 検証と スコア — SBTと CDP
SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。基準やガイダンスを作る国際的な枠組みであるSBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4機関が共同で運営しています。短期目標は申請時から5年から10年先を対象とし、原則として年4.2%以上の削減が目安とされます。審査されるのは会社ではなく目標です。そのため「SBT認定」は、環境に優しい会社というお墨付きではなく、削減目標が科学的根拠に基づくと確かめられた、という意味に読むのが正確です。環境省の資料では、2026年3月31日現在、SBTに参加する企業は世界で12,856、日本で2,351とされ、日本は全体の約18%を占め国別で首位です。
SBTには、短期目標のほかに長期目標や、温室効果ガスの排出量と除去量を均衡させるネットゼロ目標といった種類があります。いずれも企業が自分で宣言して終わりではなく、基準に沿っているかの検証を受ける点が共通しています。なお、目標の検証には費用がかかりますが、金額は対象や規模によって異なるため、利用を考える場合は運営側の公式な案内で確認する必要があります。
CDPは、英国で設立された国際NGOで、企業や自治体の環境情報開示の仕組みを運営しています。企業が質問書に回答し、その内容が情報開示、認識、マネジメント、リーダーシップといった段階で評価され、スコアとして示されます。最高水準の評価を得た企業は「Aリスト」として公表されます。CDPは認証制度ではないため、基準を満たせば全社が登録される仕組みとは違い、相対的な成績として受け取る必要があります。環境省の資料によれば、CDPには640を超える機関投資家が署名しており、スコアは投資や調達の判断材料として使われています。
もう1つ、よく混同されるものに指数があります。指数は、算出する機関が一定の基準で銘柄を選び、定期的に見直して公表する投資の物差しです。企業が申請して取得するものではないため、指数に選ばれたことは「認証を取った」こととは意味が異なります。企業の発表で「ESG指数に選定」と「認証を取得」が並んでいても、前者は選ぶ側の評価、後者は審査を受ける側の手続きの結果、という違いがあります。
民間の 認証 — B Corpの 費用感
B Corpは、米国の非営利組織B Labによる民間の認証です。自己評価を提出し、第三者による検証を受けて認証され、維持するには毎年の認証料がかかります。B Labの米国・カナダ向け料金表(2026年)では、年間の認証料は売上高に応じて決まり、年間売上高500万ドル以下の区分で2,100ドル、7億5,001万ドルから10億ドルの区分で52,500ドルとされています。10億ドルを超える場合は個別の料金になります。公的な制度ではなく民間の認証であること、費用が売上規模で大きく変わることが、国や自治体が関わる制度との違いです。日本で見かける海外発のロゴには、このような民間認証も含まれています。
ロゴを 見たときに 確かめたいこと
ここまで見てきたように、似た形のロゴでも、運営者も、審査の対象も、示される結果もまったく異なります。企業の取り組みを正しく受け取るために、ロゴを見たときは次の点を確認してみてください。
- 運営者は誰か — 国・自治体などの公的機関か、国際的な枠組みか、民間の団体かを確認します
- 対象は何か — 会社全体の仕組みか、削減目標のような一部の取り組みかで意味が変わります
- 合格型か成績型か — 基準を満たせば登録される認証か、スコアで示される評価かを見分けます
- 分野は何か — 環境の制度と、健康経営のような人の健康を対象とする制度は別のものです
- 費用と期間 — 認証・登録料や有効期間が公表されている制度では、その条件も手がかりになります
「ESGマーク」という1つの制度がない以上、ロゴだけでは何が確かめられたのかは分かりません。大切なのは、ロゴの横にある制度名を手がかりに、運営者、対象、仕組みを1つずつ確かめることです。認証、目標の検証、スコアという種類の違いが分かれば、企業の発表も「どの取り組みが、誰に、どう評価されたのか」と具体的に読み解けるようになります。
出典(4件)
- 佐賀市公式サイト「環境経営システム『エコアクション21』」(認証・登録の手続き、審査費用1人日5万円、認証・登録料2年分5万円〜) (2026/11/06確認)
- 環境省「SBT(Science Based Targets)について」(2026年6月25日更新資料:SBTの定義、SBTiの運営機関、参加企業数、CDPの概要) (2026/11/06確認)
- 経済産業省「健康経営優良法人2026認定法人が決定しました」(2016年度創設、大規模3,765法人・中小規模23,085法人) (2026/11/06確認)
- B Lab U.S. & Canada「2026 Pricing for Existing B Corps」(売上高区分別の年間認証料2,100ドル〜52,500ドル) (2026/11/06確認)