ニュースで毎月のように流れる「消費者物価指数が前年同月比で何%上昇」という数字。これは私たちの生活費の変化を測る物差しであると同時に、企業の値上げや日本銀行の金融政策を通じて、企業業績や株価にも関わってくる指標です。ただ、指数の中身や「コア」「コアコア」といった言葉の意味まで知っている人は多くありません。このコラムでは、総務省統計局の公式資料をもとに、CPIの作り方と最新値、そして企業との関係を仕組みとして整理します。

CPIの作り方 — 買物かごを固定して費用の変化を測る

消費者物価指数(CPI)は、総務省統計局が作成し、毎月公表しています。統計局の解説書「消費者物価指数のしくみと見方」では、暮らしに必要な商品(財やサービス)を一つの「買物かご」に入れ、その買物かご全体の費用が物価の動きによってどう変わるかを表したものだと説明されています。買物かごの中身(品目と数量)を基準の年に固定し、同じものを同じ量だけ買った場合の費用を比べるため、変化は純粋な価格の動きだけを反映します。この計算の考え方は「ラスパイレス式」と呼ばれます。

現在の指数は「2025年基準」で、2025年の平均を100としています。指数品目は、家計調査の結果をもとに選んだ588品目に「持家の帰属家賃」1品目を加えた589品目です。各品目の重要度は「ウエイト」で表され、消費支出全体を10,000として配分されています。たとえば2026年9月分の公表資料では、電気代のウエイトは376、生鮮食品を除く食料は2,375です。価格そのものは、小売物価統計調査(動向編)で調べた、店頭での実際の販売価格(消費税込み)が使われます。なお、基準は5年ごとに見直されるのが通例で、2025年基準への改定に伴い、それまで使われていた2020年基準から切り替わりました。

価格の調べ方も具体的です。元になる小売物価統計調査(動向編)は、全国167の調査市町村で、約2万8千の店舗・事業所を対象に、毎月およそ20万の価格を調べる調査です。調査員が店舗を訪ねて実際の販売価格を確認する品目と、インターネットなどで価格を調べる品目があり、家賃のように地域による違いが大きい品目では、民営家賃の調査として約3万5千世帯分などの情報も使われます。スーパーの特売価格の扱いや、品質が変わった場合の調整(同じ商品がなくなれば類似品目でつなぐなど)にもルールがあり、「単に値札を集めた数字」ではないことが、解説書から読み取れます。

コアCPIと「コアコア」 — 何を除いて見ているのか

公表値にはいくつかの種類があります。すべての品目を含むのが「総合」です。ここから天候などで価格が大きく振れやすい生鮮食品を除いたものが「生鮮食品を除く総合」で、一般に「コアCPI」と呼ばれます。さらに、原油価格などの影響を受けやすいエネルギーも除いたものが「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」で、報道では「コアコアCPI」と呼ばれることがあります。統計局の正式な名称はあくまで「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」です。

どれが「正しい」物価というわけではありません。総合は生活実感に近い一方で、生鮮食品やエネルギーの一時的な変動に引っ張られます。コアやコアコアは、その変動を取り除いて基調を見るための物差しです。目的に応じて使い分けることが大切です。

最新値の読み方 — 2026年9月分

2026年10月23日に公表された2026年9月分(全国、2025年基準)では、総合指数は102.2で、前年同月比は​2.1%の上昇でした。生鮮食品を除く総合は102.3で同じく​2.1%の上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は102.8で​2.4%の上昇です。内訳を見ると、食料は​前年同月比2.8%の上昇で、生鮮食品を除く食料が​2.9%上がる一方、エネルギーは​0.6%の下落でした。公表資料では、ガソリンの暫定税率廃止など政策による効果について、統計局が試算した寄与度も示されています。つまり、発表される上昇率の中には、市場の需給だけでなく制度変更の影響も含まれていることがあります。

数字を読む際の注意点が2つあります。1つは、前年同月比は「1年前と比べた変化」であり、先月からの変化(前月比)とは意味が違うことです。もう1つは、指数の水準(102.2など)と上昇率は別物だということです。上昇率が鈍化しても、指数の水準が下がらなければ物価は高止まりしています。「上昇率が下がった=物価が下がった」ではありません。

内訳の動き方も示唆に富みます。2026年9月分では、費目別で教育が​前年同月比3.8%の下落となりました。私立高校の授業料が​73.2%下落したことが大きく影響しており、授業料の無償化の広がりといった制度面の変化が、指数をはっきり押し下げた例です。反対に食料の中では、生鮮魚介が​13.9%上がるなど、品目ごとのばらつきも大きい月でした。総合の上昇率だけでは、こうした「何が上げて、何が下げたのか」は分かりません。公表資料では費目別・品目別の指数と、総合への寄与度が示されているため、気になる月は寄与度の大きい品目から確認するのが読み方のコツです。

企業業績・株価との関係 — 断定できないが、経路はある

CPIの動きが企業の業績に影響する経路の一つは「価格転嫁」です。原材料やエネルギー、人件費などのコストが上がると、企業は販売価格に転嫁しようとします。転嫁が進めば売上高は増えますが、消費者の買い控えで数量が減ることもあります。逆に転嫁が遅れれば、コスト増が利益を圧迫します。同じ物価上昇でも、価格決定力のある企業とない企業とでは、利益への影響が逆方向になり得ます。

もう一つの経路は金融政策です。2013年1月の政府と日本銀行の共同声明では、物価安定の目標として「消費者物価の前年比上昇率で​2%」が掲げられ、統計局の解説書も、CPIが日本銀行の金融政策の重要な判断材料の一つだと説明しています。物価の基調が目標と整合的かどうかは、政策金利の判断に関わります。金利が動けば、企業の借入コストや、株式の評価に使う割引率が変わるため、株価全体の水準にも影響し得ます。ただし、これはあくまで仕組みの話です。CPIが上がれば株価が上がる・下がるといった単純な関係はなく、物価上昇の中身(コスト主導か、需要主導か)や、その時点の市場の見方によって反応は異なります。個別の予想値を根拠なく並べることは避け、公表された指数と内訳、寄与度を確認しながら読むのが確実です。

CPIは、589品目という具体的な買物かごから作られる、検証可能な統計です。ニュースで数字を見たら、総合だけでなくコアとコアコアの差、食料とエネルギーの内訳、そして前年同月比か前月比かを確認してみてください。それだけで、物価のニュースはぐっと読み解きやすくなります。

CPIは、給与の実質的な価値を見るためにも使われます。名目賃金の増減から物価の増減を割り引いたものが実質賃金であり、春闘など賃上げ交渉の報道で参照される数字です。企業にとって物価は、売上(価格転嫁)と費用(人件費・仕入)の両面に同時に効いてきます。だからこそ、CPIのニュースは「物価そのもの」だけでなく、「この物価上昇は企業の価格転嫁と賃上げのどちらに強く表れているか」を内訳から読むことが重要になります。

出典(3件)